《しあわせは 語る言葉が 映し出し》

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 物事を考えるためには,個々の事実の正確な認識が必要になります。人間関係を考えるためには,先ずは自分をどのように認識するかということが大事です。自己紹介では,名前,年齢,住所のほか,場に応じて卒業学校,出身地,趣味や特技を披露します。履歴書では,職歴や賞罰が追記されます。自己紹介では主として自分に関わる事項が,履歴書では社会と関わる事項が公表されます。関わりの様子を見れば,その人となりが分かるということです。
 人の品定めをするとき,尊敬する人はだれか,どういう人とつきあっているか,その情報を尋ねることがあります。その背景には,朱に交われば赤くなる,という言葉があります。このような他者に向ける視線を自分に向けることも必要です。例えば,年賀状を出している人たちがどういう種類の人たちであるか,年齢や職種,領域で分けてみると,その中心にいる自分の位置が浮かび上がってきます。
 身近なつながりだけではなく,もっと広く大きなつながりも認識しておくべきです。70億人という同胞がいること,その中で日本という地域に古事記の時代から続いている命の流れを受け継いでいること,さらに後生につなげていくべき命であること,など時間と空間の座標を意識してみましょう。自分がいる場所を定義できれば,自分の存在を確信することができます。
 自分を見届けるためには,時空間に関する教養が必要です。歴史の知識がなければ,そこから人がどのように生き延びてきたのかを学ばなければ,生きるということを示す座標が見つかりません。人やモノやコトにどのように関わっていけばいいのか,文化や文明と称されている人の営みを記憶し活用していくために,言葉という記号化が不可欠です。言葉による表現を手に入れたときから,人はつながりを知恵として蓄え伝承し発展させることが可能になりました。言葉を受け継ぐことにより,人は生きる座標を手に入れました。
 どのような言葉を語るか,どのように語るか,そのことから語る人がどういう人か見えてきます。そう考えてくると,語ることが怖くなり,書くことが躊躇されます。だからといって,黙しているわけにはいきません。関わり続けることが生きていくことです。

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(2011年11月13日号:No.607)