《安らぎは 地面をしかと 踏みしめて》

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 非常勤の勤務からの帰路,駅前の幹線道路を横切る交差点で信号待ちです。何年も通い慣れた道ですが,ふと正面のビルを眺めて,視線を空の方に動かしていると,13階の窓の並びに目が止まりました。見上げた窓は小さく,窓の側にいるかもしれない人の大きさが,想像されました。自分がそこに立ったとして,下界を見下ろしていることを思い描くと,足がすくむだろうと感じました。高い所が苦手なので,いくら建物の中とはいえ,その高所に勤務すると落ち着かないだろうなと思いつつ,青信号で下界を這いつくばって過ぎていきました。
 各地の名所タワーや塔などの高所に登った経験はありますが,日常的に高所にいるという体験はしていません。5階程度のビルでの数時間の滞在機会は珍しくはないのですが,その高さを実感するのは階段の上り下りです。なんとか自分の足で上り下りをできる範囲が,その程度です。13階までの階段は,とても無理です。地に足の付いた暮らしということが落ち着きの条件と思い込んでいると,地面から足が離れるエレベーターが必須となるビルは,あまり近づきたくありません。
 高い所は見晴らしがいいので,快適です。ただ,いつもそこにいて,見下ろす視線に馴染んでくると,その視界に相応しい思考回路が構築されてくるかもしれません。見下すことが当たり前という言動になると,地上に降りたときにストレスを感じたりするかもしれません。高所に暮らすことがどういう感じなのか,低所得者には想像の外です。
 行動の範囲が2次元世界,つまり地上を右往左往しているので,高所という3次元世界には不慣れです。遠方に出かけることもないので,飛行機も身近ではありません。飛行場の近くなので,ジェット機はすぐ頭上を飛んでいくので見慣れてはいますが,滅多に機上の人とはなりません。昔ヘリコプターに搭乗した際に,足下の板張りのすぐ下が空という体験をしたことがあり,以後飛行機に乗ったときは,足の下が虚空と思うようになり落ち着かないので,意識的に思いを機内水平面に固定しています。車輪が滑走路に着いたとき,ほっとしています。

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(2016年01月17日号:No.825)