《美味しいと 言えばいいのに 黙ってる》

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 連れ合いには変な癖があります。癖と言っていいのかよく分かりませんが,不思議な特徴です。本人は気付いているようで,勤め先で若い社員に「お母さん,何か言葉が変」と言われても笑って応対しているようです。どんな癖か,早く書きなさいと思っておられるでしょう。
 NHKで放映されている朝の連続ドラマを欠かさず見ています。前回の放送は「ちゅらさん」で,沖縄の言葉がたくさん出てきて,独特のイントネーションも知らず知らずに耳に入ってきました。連れ合いはそれをごく自然に吸収してしまい,普段の会話で出てくるのです。ドラマの舞台になっている地方の言葉づかいに慣れてしまうという癖です。気になるというほどではなくて,ときどきふっと出てくる程度ですが,そんなときは二人で顔を見合わせて笑っています。
 言葉に対する感受性は連れ合いだけの特徴ではなくて,女性一般にあるのかもしれません。若い女子社員がささいな違いに気付くのも,言葉に対して敏感な証拠のように思えます。言葉を母国語と呼ぶ根拠は,そのあたりにあるのでは納得しています。好きこそものの上手なれと言われますが,おしゃべりが好きな女性だから,言葉への関心が高いのでしょう。特におしゃべりは話し言葉ですから,耳で聞く言葉であり,聞こえてくる言葉に反応しやすいのもうなずけます。
 表音文字であるひらがなはかつて女性専用の文字でした。耳で聞く言葉です。一方,男性が使っていた文字は表意文字である漢字であり,目で見る言葉です。名前も女性は呼ばれるためのものであり,ひらがなによる名前でした。男性は読まれるための漢字による名前です。この傾向は今でも健在なのでしょうか,女の子の名前は音の響きを主体に,男の子の名前は意味を込められて,名付けられているように思えます。
 これまで政治経済社会を作ってきたのが男性であると考えると,そこでは書き言葉と読み言葉が重要視されるという傾向が出てきます。文書によるコミュニケーションです。どうしても話し言葉や聞き言葉は二次的になり,時間外に使われるものと見なされ,仕事中はおしゃべりをしないという規制も布かれます。男子は無口であれということで,男性の話し言葉はどちらかというと洗練されて来ませんでした。ものも言いようで角が立つというケースは男性言葉に多いのです。
 最近,若い女性のおしゃべり言葉が男性化していると言われます。社会における男女差を無くそうという意図があるのかもしれませんが,話し言葉としての男性の言葉は,とてもほめられた代物ではないという感性を発揮して欲しいと願っています。母の言葉を大切に・・・。

(2001年11月04日号:No.83)