《安らぎは 嫌な言葉を 棚上げし》

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 不適切発言が続きます。映画監督さんが水俣病に関する講演の中で不適切な発言をしたということです。「人間の形をしていても,中身はもう人間じゃなくなる」。指摘されて,謝罪会見を開いたそうです。話の前後抜きで一部分だけを見ると不適切になるという,いわゆる揚げ足取りになる場合もありますが,この一文は言ってはいけない言葉です。人間じゃない,これは怒りの余りに人を罵倒する際に飛び出す言葉です。普通の話の中では,紛れ込ませてはいけません。
 「感覚が侵されるということは文化を受け入れる部分がダメージを受ける」。聴講した者が「悔しくて涙が出た」と批判していたそうです。水俣病を説明するために医学的な学説を引用したつもりであったようですが,指摘されて陳謝に至ったようです。監督という表現のプロが,思いを伝えることに粗忽を仕出かしました。どのように言葉が伝わるか,伝えることだけを考えていると,間違えます。そんなつもりで言ったのではない,そういうすれ違いを経験しているはずです。
 「表現者として正確に真実を伝える行動を取ってほしい」と注文をつけられています。真実を伝えることの難しさを考えさせられます。言葉それ自体が必ずしも真実を正確に表現しているとは言えないからです。赤色,いろんな赤色があり,人によってイメージは異なります。何と表現したらいいのか分からないこともあります。逆に,ある言葉で表現しても,何か違うなと思うこともあります。真実は一言では表現できないと了解しておかなければなりません。
 言葉で表現してしまうと,それは0か1かという形で伝わっていきます。言葉は曖昧な意味を伝えてはくれません。言葉通りに伝わっていきます。真実と言葉の真実とは違っています。その不一致を補うために,言葉をつないで文章として表現をすることになります。「好きです」では正確ではないので,「死ぬほど好き」,「どちらかと言えば好き」と量的な表現を追加することになります。つまり,100%好きから,数%好きまでの幅があるのです。
 言葉を人に向けて使うとき,相手を否定したり貶めたり傷つけたり責めたりするような言葉は使わないようにすべきです。自分のことを語るときは気を抜いても不都合を自分が引き受ければ済むことなのでいいのですが,人のことを語るときにはマイナスの言葉は使わないようにしておいた方がよいようです。

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(2017年05月14日号:No.894)