家庭の窓
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夏の名残が壁に掛かっています。毎年のことです。それぞれの抜け殻の主たちは,命を全うして,逝ってくれたのでしょうか。この壁や庭木や塀などを夜の内にひっそりと通り過ぎていった相手なので,直接に挨拶を交わしたことはないのですが,鳴き声は耳にしたかもしれないと思いながら,良き生き方であったことを,願ってしまいます。袖振り合うも他生の縁です。
軒先の背伸びをしても手の届かない高さまで,頑張って登っていったのでしょう。明るいところでは白い壁なので目立って危険ですが,暗い内には見えないで無事に羽の乾燥ができたのでしょう。毎年の風景といいましたが,今年の蝉たちの子どもは7年ほどの間を置いて,親と同じ壁を登ることになりますが,そうであって欲しいと思います。
羽を帯びた蝉は,花と同じに,世代交代の大事な役割のために慌ただしく束の間の時間を費やします。出会いがあれば,生きてきた甲斐があることになります。もしも出会いがなかったら,志半ばで終わることになります。うるさいほどの鳴き声は命を生み出す切ない願いです。それは花の願いと同じです。花や鳴き声を美しく妙なるものとして感じ取るのは,人としての命への共感であり,そこに安らぎがあります。
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