家庭の窓
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ネットトラブルについて,高校生に話す機会がありました。映像資料を鑑賞した後で,留意点を伝えるという形にしました。映像は女子生徒が友達の家にお泊まりに行って楽しく過ごした様子を写真に撮ることから始まります。楽しかったことを,写真を添えて別の友達にネット送信しました。それを受け取った友人が,知り合いの友人にこんな子がいると自慢げにネット送信し,恋人募集中という形でネットにアップされてしまうという事例です。友達の友達に渡っていくと,抑えが効かなくなります。
一人の若者がその女の子の写真から学校や自宅の情報を引き出してつきまとうという展開です。もちろん,写真をネットに放り込むと,たとえ信頼できる友達だからと思っていても,つい軽い気持ちで転送されて,取り返すことは不可能になる怖さを知らせる教材です。ネットの世界はブレキーのない乗り物と同じなので,ネットに関わる前のブレーキ操作が必要であるということを補足として話しておきました。情報をアップする前に一旦停止をして安全を確かめること,危ないと思われるときは停止すること,ブレーキはそこにしかないのです。
世の中は情報社会ということで,ほとんどの人がネットに組み込まれています。知りたいことが簡単に入手できますし,通販で物も手軽に手に入ります。個人的な便利さという側面だけを見ていると,失っていることが見えなくなります。情報を手に入れることが簡単にできるようになると,必要な情報が手に入らなくなります。この文章が間違っているわけではありません.先を読んでください。
インスタ映えという言葉が流行語の候補に挙がっているようです。要は「いいね」という他者からの言葉を集めたいことです。いいねがもらえると,皆がそう思っていると思うはずです。そうは思わないという情報は見えてこないからです。結論を言ってしまえば,人は自分に都合のいい情報だけを選んで集めているということです。もしも自分が気に入らない情報に出会ってしまうと,不要な干渉をします。匿名が正義と勘違いしているのかもしれません。
情報を得ることが不便な時代には,情報を求めて新聞を読んだり集会に出かけたりすると,自分の気に入らない情報にも出会ってしまいます。その望まない出会いがあることによって,偏向した情報に染まることから逃れることができます。自分とは違った思いや考えがあること,そのことを認めることによって,社会的なバランスを保つことができます。ツイッターのように言いたいことをまき散らすだけの一方通行の情報は,それに賛同する人だけを集め,偏っていきます。
賛同する人は思い込んでいるほど多くはありません.みんなが同じ思いであると錯覚しているだけです。同じ人だけしかつながっていないのですから。実のところ,多くても2割の人が同調者に過ぎないでしょう。それが人の世の常識です。似たもの同士の小集団を作っていくのが,現在のネット世界の特徴です。
人は周りから入ってくる情報を素直に受け止めてはいません。自分の都合のよいように色眼鏡で見取っています。人の言葉を,言った人の積もりとは違って受け止めたり,こうあって欲しいと思って聞き間違えたりするものです。そんなつもりで言ったのではないのにと,伝えたことが伝わらないことは珍しくありません。もちろん,その逆もあるということです。情報の発信と受信には,自らの思惑がフィルターになっていることを勘案することが大事です。
それに気がつくために,いろんな人,いろんな情報源と分け隔てなくつながっているか,時々落ち着いて確認してみることです。ネット情報だけに偏るのではなく,新聞や,書籍や,講演会や,身近にいる多世代の人も含め,多チャンネルがあります。見聞きしたくないことも,受け止めることです。だからといって,賛同しなくてもいいし,従うこともしなくていいのです。選ぶのは自分なのですから。
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