*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【アンテナ機能?】


 人権擁護委員の会合において,委員に求められていることはアンテナ機能であると聞かされています。同時に,委員は人権擁護のための直接的な行動をしてはいけないと釘を刺されます。相談を受けた事項に対して,委員は助言を行うか,必要な場合には法務局職員に橋渡しをするにとどめ,具体的な行動は相談者が自らの判断で行うものという原則であるようです。
 委員になって課されている職務として相談対応があります。常設相談と特設相談があります。多種多様な相談を受けることになりますが,その中に人権侵犯事例が紛れていないかを見届けることが,期待されているアンテナ機能です。ところで,相談者は人権が侵犯されている,少なくとも自分の人権が満たされていないという判断をして相談に訪れてきます。アンテナとしては反応すべきかどうか,大いに迷います。
 世間には自分の思い通りに行かないこと,少しは折れなければいけないこと,あるいは社会の必ずしも理想的ではない仕組み上無理であることがあります。ことさら悪意があってのことではなくても,仕方のない行き違いもあります。普通は何とかくぐり抜けているはずのことが,人権相談として持ち込まれてくることも少なくありません。相談者には何とかできないという事情があると思われますが,だからといって人権侵犯として扱うことにはなりがたいようです。
 相談を受ける以上,何らかの助言をしなければと迫られます。その際,相談者は多面的な弱者であると考えなければなりません。すなわち,肉体的,精神的,政治的,経済的,情報的,教育的などの面から見て,複数の点で弱さを持っているのです。例えば,身体的な障害を持っているという場合,精神的にも,経済的にも,教育的にも弱さを抱えざるを得ないということは容易に推察できます。しかしながら,普通の相談者が抱えている背景を見極めることは至難のことです。助言をするにしても的を射ているのかという不安がつきまといます。

 アンテナが反応して人権侵犯となったとき,相談は委員の手を通り抜けて,法務局扱いに移ります。調査が行われ,侵犯事実が認定できたとき,どのような対処が用意されているのか,委員としても知っておきたいことです。そこで,人権擁護局のホームページをのぞいてみます。

 ・援助:被害の救済・予防のための法律上の助言や,関係する機関への紹介など
     をします。
 ・調整:相手方との話し合いを仲介します。
 ・要請:被害の救済のために実効的な対応をすることができる者に対し,必要な
     措置を執るよう求めます。
 ・説示:相手方に対し,人権侵犯を止めるよう注意します。
 ・勧告:人権侵犯の事実を摘示し,文書で必要な勧告をします。
 ・通告:関係行政機関に対し,適切な措置を執るよう求めます。
 ・告発:刑事訴訟法の規定により告発します。


 相談者に対して,事実が認定された場合に以上のような救済の手続きがあるという情報を伝えることも必要になります。

 委員がアンテナになるとしても,相談という発信がなければ受信ができません。知られない人権問題は解決しようがないのです。人は往々にして閉鎖的空間に入っています。職場内,教室内,施設内といった場は,外部とのつながりを絶つことで結束を強めるといった側面があります。アンテナの方から入り込んでいくという活動も求められます。施設への出前相談が始まっている背景には,そのような危機感があります。
(2007年05月05日)