*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【ベターハーフ?】


 あるご夫婦のお話です。ある日,妻が熱を出して起き上がれなくなりました。夫は仕事に出かける用意をしながら,妻に優しく声をかけます。「夕食は外で食べてくるから,ゆっくり休んでいなさい」。それを聞いた妻は,治ったら離婚すると思いました。夕食の準備はしなくていいという夫の思いやりが通じていないのです。それが夫族のわがままな勘違いです。
 夕食の準備ができないということは,妻の食事もありません。自分の夕食のことしか考えていないのは,妻に対する無視に当たります。帰りに何か買ってくるけど何が食べたいかを尋ねるとか,早く帰ってきて何か作るから,といった妻の食事の心配をするのが夫婦の思いやりです。
 夫婦になるとき,昔は「この人となら一緒に苦労できる」という0からの出発でしたから,少しでもいいことがあるだけで幸せになれました。今は「この人となら幸せでいられる」という100からの出発ですから,ちょっと何かあると不幸せになります。
 一緒に苦労したというつながり,苦労をかけて済まないという感謝,二人で乗り越えたという喜び,そんな二人だけにしか分からない経験の重なりが,夫婦の絆を紡いでいくはずです。
 夫婦はベターハーフと言われます。ベストハーフとは言いません。つまり,よい友達以上の,よりよい間柄であるということです。欲張って最良のパートナーであることを自分に課したり相手に求めると,夫婦であることが重たくなってしまいます。
 相手に対してベストであることを求めると,ちょっとしたことで相手を責めるようになります。100点から減ることばかり気にするので,相手のベターである70点が見えなくなります。ひいては自分の不幸の元が相手にあると思いこむこともあるでしょう。ベストでなくベターでいいのです。
 ハーフであるということは,一緒になって一つということです。相手に対してそれぞれに幸せですかと確認しあうことではなく,幸せだね,幸せですねと共感することで一つになることができます。男女参画社会の出発点として,夫婦の日常のあり方を考えてみることも必要かも知れません。
(2007年05月18日)