*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【アリガトウは後出し?】


 江戸時代後期,文化文政時代に大名屋敷を専門に荒らした鼠小僧は,盗んだ金を貧しい町民に配ったので,義賊と呼ばれたと語られています。ところで,鼠小僧は金を取ってきて貧者に与えました。簡単に言えば,テイクしてギブしたのです。義賊とはいえ窃盗犯であり,武家屋敷をねらったために極刑に処せられたそうです。
 世間の諸事はギブ・アンド・テイクのルールで営まれています。一方,鼠小僧はテイク・アンド・ギブでした。順序が逆になると闇のルールに変わるということです。いろんなもめ事をみると,テイクのぶつかり合いです。いきなりテイクを持ち出すと,争いになるか,犯罪になるしかありません。
 鼠小僧は大名屋敷から金をテイクするとき,アリガトウとつぶやいたかもしれません。アリガトウは美しい言葉ですが,テイクするときの言葉です。普通の順序では,後出しの言葉になります。狭い道を対向するとき,お互いがアリガトウを言うつもりでいたら,衝突します。お互いにテイクを先にするからです。本当はお互いに譲るというギブを先に持ち出せば,丸く収まります。そのときの言葉がドウゾです。ドウゾがあるから,アリガトウがついてきます。
 権利と義務という言葉があります。この言葉に引きずられて,権利を先に主張し,義務が後回しになることが普通です。権利はテイク,義務はギブに対応することに気付けば,権利と義務はテイクとギブに重なり,逆順になります。権利を先にするから,もめ事が起こっています。
 世間はギブが先,つまりドウゾという言葉から始まります。ギブをすることは他者の権利の擁護になります。自分の権利を先に求めるのではなく,他者の権利を先ず守ることから,人間関係は始まっています。ものの豊かさはテイク優先の豊かさ,だから心は闇に染まります。心の豊かさはギブ優先の豊かさであることを早く思い出さなければなりません。
(2007年06月13日)