*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【もう一つ先を?】


 ある個人病院でのお話です。夜中に看護婦さんからの緊急電話でお医者さんがたたき起こされました。急いで病室にはいると,心配をよそに患者さんはケロッとしています。若い看護婦さんは身を縮めて目で謝っています。お医者さんは文句の一つもいいたい所でしょうが,決して叱らず「よかった」とニコニコして帰って行きました。若い看護婦さんは得だなという下世話なセクハラまがいの感想は別として,この話は大切なことを教えてくれています。
 もしお医者さんが無駄足を踏んだということで嫌な顔をしたら,また同じ事態が起こったとき,看護婦さんはお医者さんをすぐに呼ぶことをためらい,「もう少し様子を見てから」と待つでしょう。その静観が致命的な遅れになる可能性もあります。病院は患者のことを優先すべきなのに,看護婦が医者に気兼ねをするようでは困ります。だからお医者さんはニコニコと笑顔を見せて,患者の無事なこと,患者の人権を優先する態度を示していたのです。
 会社などの組織で働くとき,ともすれば身内の人間関係を優先して,組織が優先すべき顧客を後回しにすることがあります。それは結果として,組織の存在を脅かす不祥事となって現れます。お客様は神様であると言われたりしましたが,お客の人権を守るという風に考えてみることも,気構えをする縁になるかもしれません。
 ご近所の知り合いのお家で急病人が出たという話を耳にして,お見舞いに行かなければと,電話を掛けて様子を尋ねようとします。電話を受けるお家では心配している所に,電話が鳴ります。病院からの悪い知らせではとビクッとします。受け取ると問い合わせの電話です。話している間も,病院からの電話があるかもしれないと気もそぞろです。本当は迷惑なのです。優しさを示しているようでいて,無神経さしか届けていません。ご近所であるなら,ちょっと足を運ぶという思いやりが望まれます。

 人権問題に対する啓発活動重点項目の標題に,「育てよう 一人一人の人権意識〜思いやりの心・かけがえのない命を大切に〜」とうたわれています。人権侵害を防ぐためには,人権意識を育てることが肝要であるということです。では,その人権意識とはどういうものと認識しておけばいいのでしょうか? 人権意識を持ち込まなければならないのは,対人関係の中です。社会生活の中で必須の意識ということになります。社会生活の中ではお互い様という認識が普通の指針です。五分と五分という関係です。相手の五分を認め,自分の五分を抑制するためには,思いやりという暮らしの知恵を生かすことが大事になります。相手の五分,そこに人権の尊重という意識が実現できるという期待があります。
(2008年01月12日)