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【人権擁護委員の声?】
20年度の協議会総会の際に,意見交換会が催されました。テーマを2点設定しての意見聴取がありました。
テーマ@「新たな人権啓発の手法について」
テーマA「人権擁護委員活動の周知について」
ただ,テーマが事前に周知されているわけではなかったためか,意見は必ずしも2つのテーマに沿ったものとはなりませんでした。そこで,テーマによる集約ではなくて,意見の内容に沿って新たに区分けして整理しておくことにしました。ただし,意見は会場での聞き書きですのでそのままではなく,整理のために補足修正を加えていることをご了解しておいてください。
※趣旨の説明
人権擁護機関や委員の存在が一般社会に十分に周知されているとは言えないという指摘があります。一方では,人権という理念が日常的な場面で広く生かされているとは思われない実情もあり,人権啓発に対する期待は大きなものがあります。ところで,人権理念の普及・定着については,人権教育と人権啓発という2つの流れがあります。文部科学省による人権教育は学校教育や社会教育という領域で実施され,法務省やその他の省庁による人権啓発は行政の活動として行われています。
人権の啓発を実践する場合においては,個々の具体的な人権問題を扱うか,それとも一般的普遍的な暮らしの中に潜む問題を扱うのかというアプローチの選択があります。また,学校や公民館等の施設に集まっていただくといった意図的な啓発と,パンフレットやポスターなどによる不特定多数に対するアピールとしての啓発とが行われています。従来の啓発及び委員活動の周知が十分ではないとすれば,今後どのような取組が考えられるか,ご意見を伺いたい。
※意見あれこれ
《啓発活動に関して》
○人権の花運動については,学校の立場としても人権教育の一環として取り入れることが可能であり,学校長も実践活動としての意義を認め,事後にはやってよかったという声を聞かせていただいた。
○人権の花運動は手段であり,啓発の入り口と考える方がよい。
○強調月間などの催しには,委員がこだわりを持って取り組む姿勢を見せることが大事だと思われる。
○相談を地道に受けていき,法務局と連携して確かな救済実績を示すことが最大の啓発となる。
○平和的な生存の権利といった当たり前のことをどのように啓発するかという問題がある。侵害の救済事例等を浮き上がらせることによって具体的に意識化できると考える。
小学生向けの人権の花運動,中学生向けの人権作文コンテストは,人権教育とのコラボレーション活動であり,人権教育の新しい展開を促すというメリットが認められます。児童にとっては運動それ自体が人権教育になるという考え方が基本ですが,一方で,人権擁護委員の存在を知らせるという面での啓発も大切でしょう。ただ,未成年者に対しては,啓発よりも教育に焦点化する方が適切であると思われます。啓発は成人に向けて行われるものと考えた方が方策を検討しやすくなります。啓発の第一義的目標が人権に対する気づきを喚起することであるとすれば,アピール力の強い具体的な救済実績等をどのように示すことが可能かという問題に直面します。例えば,地域ネットワーク会議で各市町の広報の記事として掲載できる形で実績を提示し,啓発への協力を求めることなどが考えられます。
《事業評価に関して》
○いろいろな啓発活動がなされておりその努力は認められるが,活動の評価をしているようには思われない。例えば,啓発物品の配布にしても,人権とどのように結びつくのかが思慮されていないのではないだろうか。
この点については,人権行政自体に評価をするシステムが存在していないために,組織活動としての評価は不可能な状況にある。言われるままにやっているという段階を脱するためにも,委員自らの考察による評価手法の開発が期待されているという補足説明がなされた。
事業・活動についてはその評価は不可欠です。ただ,例示された啓発物品の配布に対する評価は,どのような結果が現れるかという指標を設定することが困難です。物品を手にして身近に置くとき,「人権」という言葉が想起されるだろうという期待があるのみです。一般に評価をする上で基本となる情報は,対象者からの応答です。人権の花運動については,児童の体験作文などを手がかりに事業評価が可能ですし,担当教員の座談会やアンケート調査なども考えられます。中学生の作文もテーマの分析から評価ができます。SOSミニレターについては件数や推移,その内容の分析などが必要であり,教育機関への事後報告としても重要な情報となります。
《委員の姿勢に関して》
○委員に就任する際に「年間数回の出番」の軽い仕事というイメージを持たされているが,その思い込みから脱却し自覚を持つためには,委員自らが人権問題と直面し現実から学ぶことを通して発想の転換をすることが大切であり,そのためにも交流の機会に立ち会う姿勢が求められている。
○実施されている各活動についての趣旨を委員が十分に理解して取組をしないと,活動が精彩を欠くことになる。
○根本的なことであるが,「人権擁護とはいかなることか」という自問自答をした上でなければ,活動を自分のものとして取り組むことはできないはずである。委員に期待されている使命を自覚する時期にあるのではないだろうか。
○名ばかりの委員就任をされる方がいるようであるが,委員職の意味を弁えて頂きたいものである。(委員職を空き家にしないために)
○委員とはいえ,必ずしも専門家ではない。一般の住民としてできることは,被害者に寄り添い共感することである。そのことを通して人権の大切さを最も実感している被害者から学ぶことができる。とはいえ,そこまで踏み込む機会が少ないという現実もある。
委員の使命や職務については,人権擁護委員法の第2条および第11条を再確認する必要があります。その明文としての理解と現実の委員活動の間に微妙にギャップを感じられているようです。実際的には,種々の啓発活動に参加し,相談対応の形で「アンテナ機能」を果たすことが期待されています。委員が自らの存在意義を納得できる一助となるような研修が求められます。
《組織に関して》
○相談対応や部会の世話,その他の雑務に追われて疲れるが,その一因として,委員の参加・協力が少ないこと,また法務局の職員の方が1年毎に交替することも重なっていると思う。
○組織活動に携わるためには,システムの理解と個々人の役割をしっかりと認識しておくことが不可欠である。例えば,SOSミニレターの取組において,対応の一連の流れを考え理解することによって,なんとなく手伝っているという曖昧な状況から踏み出すことができるはずである。
○協議会における部会が同和・高齢者・男女参画・子どもの4部会であることはどうなのか。例えば,障がい者問題はどうなるのか。果たして国民のニーズに沿っているといえるのか,新たに考え直してみることも必要であろう。
○地元市町部局ともっと密着すべきである。
○人権問題に対する行政の姿勢が鈍いようであるが,例えば人権の花運動によって関わりを深めることができたと感じている。
○活動の評価・検証がなされていないことの背景には,自主活動になっていないことがある。法務省主導の計画の下請けになっている傾向がある。委員の地道な経験を施策に生かすことのできるシステムを作るための努力が求められている。
○人権に関する活動をしている他の団体・組織と連携を進めるべきである。
組織が活性化するためにはいくつかの条件があります。一つは,開放していること,具体的には外部とつながっていることです。この点に関連して,地元行政組織との協同や他団体等との連携の充実といった運営上の要望意見が出てきました。実情を把握するために,各委員が市町で行われている心配事相談や啓発活動にどのような形で関与しているか調べることも必要です。
他の一つは,組織内部で,情報の共有化が確保されていること,情報の流れが末端まで届く仕組みが必要になります。その結果として,要望意見が出された委員の活動への理解や参加への気運が促されます。部会構成の提案がありましたが,時の流れの中では飛躍のために組織の改編も必要になります。決断する準備として,何が求められ何ができるかについて過去の相談実績などを精査すべきでしょう。
《マスメディアの利用》
○メディアが人権擁護の活動を取り上げることが少ないようであるが,そのことも広い周知につながらない一因であると思われる。しかしながら,一方で,我々の人権擁護に向けた活動が必ずしもメディア的な価値のあるものになっていないとも考えられる。例えば,データの分析や考察の結果発表をすれば取り上げられるはずである。法務省の方でも,報道に対する施策を積極的に実施することを望む。
○中学生の人権作文コンテストについては,西日本新聞が審査から紙上発表まで積極的な関わりを持っているという例もある。
○一斉相談などの実施についてテレビが報道すると相談が急増することからも,メディアの効用は確かなものである。例えば,ケーブルテレビという分野にも着目した方がよい。
○アビスパと共同で博多の森球技場での人権啓発を実施したが,放映ではカットされていた。スポーツと人権の取り合わせがスポーツ報道には馴染まなかったのであろうが残念であった。
マスメディアとの一般的な関わりについては,最もアピール力がある擁護活動の具体的な内容の周知は守秘義務の下で不可能であり,相談事業の案内や啓発活動の報告に限られてしまうでしょう。全国一斉の活動のようなものは,法務省でスポット広告として流すといった取組が考えられます。メディアが取り上げやすい情報を提供することができればいいのですが,簡単ではないようです。
常日頃人権擁護や啓発に精力的に取り組んでおられる方々の意見は,耳の痛いところもあり,同感するところもあり,出席者の皆さんに反省と新たな使命感を喚起したはずです。こうした熱い思いを一過性に終わらせることなく,今後の活動の中に意識的に取り入れていくことが求められています。
(2008年05月28日)
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