*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【思いを通わせる?】


 年寄りが 増える増えると 聞くつらさ(朝日川柳)。年寄りが生きているだけで邪魔になると言わんばかりの風潮の中で,年寄りは肩身の狭い思いをしています。世の中には誰とは特定のしようがないハラスメントがあります。年寄りになったことのない若い人に年寄りの思いを理解できるはずもありません。それでもお年寄りと身近に接しながら少し思いやれば想像できるはずです。
 モンテーニュの著したエセーの中に「しかめっ面のお医者がうまくいったためしがない」とあります。患者さんは診察をしてくれた医者がしかめっ面をしているとよくない結果を読み取り不安になります。患者の気持ちが弱くなっていることを思いやることができないと,気がつかないうちに小さなハラスメントをしでかします。医者は病気を治せばいいと思っているのかもしれませんが,病人を治すと考えるようにすれば思いやりを表すことができるはずです。
 嫁の味付けが薄いという声があります。60歳を過ぎると味センサーである味蕾の半分を失うそうです。におい感覚も4割減退します。身体機能が変化しているのですが,そんなことは思いもしないでしょう。その思い違いの結果として味の薄いのは嫁のせいとあらぬ責めを口にします。自分のことを棚に上げるというのは陥りやすい弱さであり,そんなつもりではないはた迷惑というハラスメントがまき散らされます。汝自身を知れという知恵が他者への思いやりの前提になります。
 国民の祝日の1つに「こどもの日」があります。1948年に定められた法律では,「こどもの人格を重んじ,こどもの幸福をはかるとともに,母に感謝する日」となっています。子どもにとってのこどもの日は,母への感謝を思い起こす日であり,母の愛を糧に育った自己を見つめる日です。育てられた自分,その強い記憶があれば生かされている自分という人間観の扉が開かれて,人を人として認める思いやりが登場することでしょう。
 雑草の 名前分かると 抜きにくい(万能川柳)。名も知らない相手には心を閉ざし,邪魔という排除の気持ちが働きます。近隣の三大トラブルは,ペット,騒音,迷惑駐車だそうです。おつきあいがないと気配りが働かず,他方でちょっとしたことをハラスメントとして受け止めます。普段から少しでも関わりあっていれば遠慮と許しが機能します。心を開いてお互いを思いやることが得になると計算して欲しいものです。
(2008年06月18日)