*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【加減の陰に?】


 簡単な計算問題です。男の子3人と女の子2人を足すと何人ですか? 答えは5人? 本当ですか? 実はこの計算はできません。電信柱3本とマッチ棒2本が足せますか? 違ったものは足せないのです。答えの5人は男の子ですか女の子ですか? 計算ができるのは,子どもが3人と2人いるとして子どもが5人になるとすり替えたからです。加減算は同じもの,同じ単位のものの間にしか成り立ちません。
 次は分数の問題です。1/2と1/3を足して下さい。そのままでは計算できませんので,1/2=3/6,1/3=2/6と通分します。足し算は同じ単位でしか計算することができないので,1/6という同じ単位に換算した上で,5/6と答えが得られます。なぜ通分するのか納得いただけましたか?
 ちなみに,1/2と書くときの中心の線/は何という名前かご存じですか? 1.2の点は小数点といわれるように,/にも名前があります。括線といいます。括弧は弧で括るという意味ですが,括線は上下の数字を線で括っているという意味です。
 人の世でも,さまざまな価値単位に基づく加減算が行われています。経済の世界では,お金という価値単位が共通ですので,損得収支が計算できますが,特別な世界です。多様な価値観といわれる現代では,単純な加減算は成り立ちません。通分という手続きが施されなければ,計算をしているつもりでも無意味な答えしか得られません。家庭と仕事のどちらが大切ですか? 共通する価値単位が見つからなければ,答えは見つかりません。
 世情における加減算を通分するために人権という共通価値が想定されています。いわれのない差別,それは通分されていない理不尽な引き算です。人には個性としての能力差があります。優勝劣敗は世の習いです。しかしそれは,適正なルールに制限された局面での判定です。能力の世界を離れると,ノーサイドという同じ人間同士という世界に入ります。その切り替えが通分するという手続きに相当します。
 人の関係にわき起こる不調和を見る場合,個々の言動に「社会的に相当な因果関係」を見極めることが重要です。社会的に相当,それは誰に対しても受け入れ可能であるということであり,共通単位や通分が可能であることを意味しています。数学は実生活に表立つことは少ないですが,算数は暮らしの基盤にしっかりと生かされるべきものです。

(2008年07月16日)