*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【違いが見えるその先に?】


 17世紀ケンブリッジ大学を卒業したばかりのニュートンは,月の運動について考えていました。そのときに,有名な出来事,リンゴが落ちるのを見て引力を発見したということがありました。それまで人間はリンゴに限らずあらゆるものが落ちることを見て知っていながら,引力という概念を捉えることはできませんでした。当たり前すぎて,なぜだろうという疑問が浮かばなかったということでしょう。
 実はニュートンもリンゴが落ちることからすぐに引力を発見したわけではありません。リンゴは落ちるのに,月はなぜ落ちてこないのかという疑問を持ちました。さらに,どうして月は遠くに飛んでいってしまわないのかという疑問が続きました。その疑問に対する答えが,月は地球に向かって落ち続けているということでした。リンゴと月は同じように地球に引かれているという結論にたどり着いたのです。
 人工衛星は地球に向かって落ち続けています。ところが,あまりに遠くで落ちているので,落ちていくはずの地面が球体として逃げているのです。いつまでも地面に届かない,それが落ちてこない理由です。月も同じように地球に引かれて落ち続けているのです。
 ごく当たり前の事象と全く異なるようにみえる事象を並べてみると疑問が生まれ,考察を深めるプロセスによって,本質的な新しい概念やイメージを手に入れることができます。普通だと思える社会施設で障害を持つ人が行動に対する障害を受けることがあります。なぜだろうと疑問を持てば,施設に障害となる不備があるからと気がつきます。障害を取り除こうとするバリアフリーの考え方が生まれました。やがて,ノースカロライナ州立大学のロナルド・メイス氏が,文化・言語・国籍の違い,老若男女といった差異,障害・能力の如何を問わずに利用することができる施設・製品・情報の設計を基本コンセプトにするユニバーサルデザインを提唱しました。バリアフリーが障がい者に限定した思いやりであったのに対して,ユニバーサルデザインはあらゆる人に対して社会システムが負うべき責務への転換を促しました。
 リンゴと月が同じ引力の世界にあるという自然科学の発見と同じように,障害を持つ人もそうでない人も同じ世界の人間でなければならないという発見が,社会に潜む障害を取り除く責務の目覚めにつながりました。効率や低コストといった機械的な価値よりも,人間としての価値が優先される社会を作り上げていくことが求められようとしています。
 人権擁護の活動は,単なる思いやりに止まることなく,社会のありようを見届け,人権侵害が起こる社会の不備を解消しようとするものとなるべきでしょう。差別を禁止することや隔離といった配慮の廃止などを端緒として,考えるべき課題は山積みしています。

(2009年04月28日)