*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【誘導ブロックの研修?】


 我が協議会では,今年度の重要な取組として「点字ブロック点検調査活動」を行います。県連としての取組にもなっています。初めての取組なので,事前準備として,日頃点字ブロックを利用している視覚障害者から実状に関するお話を伺う研修会を開催しました。講師には,県盲人協会の会長をお招きしました。平成22年7月8日に行われた研修の概要をまとめておきます。

 【視覚障害者の実状】
 中途失明の方が増加しており,希望を失い閉じこもり,県盲人協会への加入率は下がっています。視覚障害は不便ではあるが,決して不幸ではないと強く訴えたい。自立支援法のサービスも問題があり,受けられない人もいます。自分が偏見を持ち周りの人の偏見もあり,障害者自身が閉じこもる傾向があるが,地域の中で生活できるように,多くの人と手をつなぐように努力をしています。特に,防犯・防災や緊急時の救済などについては,行政では手が回らないという実態があり,地域の人の手助けが肝要です。そのためにも,外に出て日頃から存在を認めていただくことが大事であると思っています。

 【点字ブロックの現状】
 視覚障害者は,点字ブロック(誘導ブロック)や,音声信号・音声誘導があるから外出時の移動ができます。その重要性が十分に認知されていない現状があります。いくつか例を挙げると,点字ブロックについては,ハイヒールを履く人からは邪魔物と思われているとか,歩道駐車,段ボールによって塞がれているとか,つり下げ式の看板,日除けなどが顔の位置にあるとかの事例があり,骨折したり,眼鏡を割ったりという被害も聴いています。視覚障害者は点字ブロックがあることで安心して移動できますが,一方で注意力が低下することに気をつけなければなりません。
 点字ブロックの敷設については,中心部に限れており,周辺部での敷設も土木事務所など関係機関に申し入れていますが,多数決の場では実現は難しくなっています。理解を広く浸透したいと努力をしているところです。敷設されているところでも,出入り口近くの点字ブロックが摩耗しているとか,色が道路の色と同じで区別されていないといった問題もあります。色については,弱視の方は黄色の点字ブロックを見ているということも知っておいて欲しいと願います。
 移動に関して,乗り物については,バスの系統や行き先の車外音声案内が不徹底であったり明瞭でないとか,電車の乗車口を手探りで探すとか,地下街では音声が反響して方向が見分けにくいとか,いろんな不便を経験しています。また,最近増えてきたハイブリッド車の静音性は,視覚障害者にはとても不安です。自動車会社に対応をお願いしているところです。他に,歩道と車道の間の段差も2cm以上でないと区別が難しいとか,音声信号が時間帯を制限されているといったことも不便してところです。

 【ノーマライゼーションの定着】
 平成5年にノーマライゼーションの思想に基づき障害者基本法が制定されました。ノーマライゼーションとは,障害者や高齢者など社会的に不利を受けやすい人々(弱者)が、社会の中で他の人々と同じように生活し、活動することが社会の本来あるべき姿であるという考え方であり,また、弱者がスムーズに社会参加できるような環境の成立を目指す活動、運動のことをいいます。提唱者のバンク・ミケルセンは、ノーマライゼーションについて、「障害のある人たちに、障害のない人たちと同じ生活条件をつくり出すこと。障害がある人を障害のない人と同じノーマルにすることではなく、人々が普通に生活している条件が障害者に対しノーマルであるようにすること。自分が障害者になったときにして欲しいことをすること」と述べています。日本では難解な外来語であるとして、国立国語研究所は等生化という日本語言い換え例を提案しています。(以上補注)
 視覚障害者が安心して移動するためには,点字ブロックのようなハード面だけではなく,人的な介助の手が側にあるというソフト面も不可欠です。外国では点字ブロックに触れたことはないのですが,その代わりに介助の手が身近に差し伸べられていることを経験しました。便所の便器の前まで誘導してもらったこともありました。日本では,見えない人に対する気配りが不足しているのではという思いを強くしました。視覚障害者が失っている位置情報を補完することの重要性を,是非理解して少しの気配りをして欲しいと思っています。人は目から80%の知識を得ているといわれます。視覚障害者は触れること聞くことで知識を得ています。十分ではありませんが,それでも努力をして生活をしています。

 【人権擁護委員との関係】
 京都での大会に出席した折に,色弱の方が,列車の時刻表示が色分けされていても見分けにくいという不便を人権擁護委員に相談して改善されたことを知りました。人権相談というルートがあることを知りました。身近なところでも,入浴施設で入場を断られた人がいて,人権擁護委員に相談して円満に解決されたと聞いたことがあります。例えば,人権相談や人権擁護委員等の点字による案内もあれば,大きな支援になります。
 中途失明の方は真っ暗闇の世界に苦悩しています。その絶望の淵からの救いを求めています。視覚障害者の特性やニーズを分かってもらうために,これからも話す場を持って,共に生きることを考えていきたいと思っています。人権擁護委員の皆様には,これからも多くの弱者,障害者を見続けていただきたいと願っています。本日はお話しする機会を頂き,ありがとうございました。

 《質疑応答》
○障害者の所在が分かりにくいが?:個人情報保護のために公表はされないが,例えば民生児童委員には職務上伝えられていると思うので,仲介をしてもらえるのでは。
○視覚障害者に特定した法律はあるか?:ありません。
○点字ブロックの敷設は義務づけられているか?:義務づけられている。
○交差点の音声信号はまちの騒音に紛れることはないか?:重機などの大きな音はやり過ごすしかないが,聞き分けるように努力をしている。
○中途失明の方への接し方は?:趣味や関心を糸口にして,小さくとも希望につながるような方向で接するように。
○ハイブリッドカーの静音は?:ハイブリッド車とガソリン車の混在がとても怖い。何らかの音を発して欲しいと要望し改善するとの返事を得ている。
○人の介助の入口である声かけが難しいが?:視覚障害者が慣れている移動中であればはねつけることもあり,折角の機会を閉ざしてしまうことになる。辞退する理由をきちんと伝えることが必要。また,急に身体に触られると驚いて警戒してしまうので,肩に軽く触って声かけをするように。交差点などで不安そうな様子が見えたら,是非声かけをしてほしい。
○障害者を身近に感じて理解するためには?:子どもの時からその心を育むために,支援学級や養護学校などが広く交流の機会を持ち,地域の一員であるという思いをお互いに育てることが大事。
○点字ブロック敷設後の管理は?:後の管理がなされていない。このたび調査をしていただけることで,見向いてくれたとうれしく思っています。

(2010年07月15日)