*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

 

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【真っ直ぐ?】


 人権を英語ではヒューマンライツ(human rights)と言います。「RIGHT」は,レフトとライトという対比によって「右」と覚えた人が多いでしょう。右と権利が同じ言葉で表現されているのはどうにも腑に落ちません。発車オーライや結果オーライという言葉は,オーライ=all rightであり,ライトが正しいという意味に使われます。
 right の根底にある意味は「まっすぐ」です。数学で直角を表す記号Rは「right angle」からきており,右にも左にも傾いていない,真っ直ぐに立つという意味です。真っ直ぐでゆがんでいないことという意味から「正しい」という意味が引き出されました。「直」という字も正しい,まっすぐという意味です。また,多いということが多数決の原理によって正しいとなり,右利きが多いということで右=正しいということになったようです。さらに,道徳的に真っ直ぐなことが正当性につながり,権利という意味も引き出されてきました。
 アメリカの独立戦争の最中,治安は乱れていました。バージニア州のベッドフォード郡では,一人の治安判事が非公式の法廷を主催して,法の執行と秩序の維持に孤軍奮闘していました。州を揺るがすような反逆の陰謀に対して死刑を宣告した一件を除いて,刑を軽減することが多く,もっとも重い刑でもむち打ちか罰金刑でしかありませんでした。きわめて良心的な判決が多かったのです。やがて時が経つにつれて温情判決は忘れられ,一方で非公式の法廷を開いた事実のみが記憶に残り,私刑ということになりました。その判事の名前がチャールズ・リンチでした。リンチという名が私刑と結びついてしまったことは,真っ直ぐで正しいことだったのでしょうか。


(2011年03月30日)