*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

 

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【権利は複数形?】


 思いがけない流れといえば推薦し承認をいただいた方々に申し訳ないことですが,23年度の協議会会長を仰せつかりました。これまでの会長を勤めてこられた方々のような法務関係の専門家ではありませんので,委員並びに法務局の皆様のお力添えをお願いしなければ役務を勤めることがかないません。具体的には,常務委員会及び各部会を通じて寄せられます皆様の声に耳を傾け,啓発と救済の活動が円滑に進むように協議会の運営を図って参りたいと思っております。ご指導とご鞭撻を賜りますようにお願い致します。
 さて,人権擁護委員にとって,「人権とは?」という問に対する腑に落ちる答えを持つことは,活動を支える大事な基本事項です。偶然目にした短い啓発の文献が参考になりそうなので倣って,ご一緒に考えてみることにしましょう。
 人権とは「人が生まれながらに持っている権利」という文字通りの定義があります。確かにその通りなのですが,今ひとつ分かりにくいので,問を変えてみます。私はどのような権利を持っているのでしょう? 自由,平等,衣食住などを思いつきますが,じっくりと考えたことがないからよく分からないというのが大方の声です。一方で,「思いやり」とか「やさしさ」という答えをする場面もあったようです。これらは人間として大切にすべき価値観ですが,人権とはそのような抽象的なものと思っておけばいいのでしょうか?
 アプローチを変えてみます。人権を表す英語はヒューマン・ライツです。直訳すれば人間の権利となります。ところで,ライツはライトに複数形を表すsがくっついた言葉です。これは人権が抽象的な概念ではなくて,数えることのできる具体的なものの総体であることを意味しています。人権が数えられるものというのであれば,それはいくつあるのかという疑問が生じてくるはずです。それに対する答えとして,例えば,世界人権宣言の中で,生命、自由及び身体の安全に対する権利,法の平等な保護を受ける権利,自由に移転及び居住する権利,婚姻しかつ家庭をつくる権利,財産を所有する権利,思想・良心及び宗教の自由に対する権利,意見及び表現の自由に対する権利,平和的集会及び結社の自由に対する権利,政治に参与する権利,社会保障を受ける権利,職業を自由に選択する権利,教育を受ける権利など30項目のリストがあげられています。
 これらの権利の概念は,日常の暮らしの中で,差別や抑圧を受けてきた人々が立ち上がり声を上げたことによって,明確な言葉になりました。人権問題という抽象的な表現ではなく,劣悪な労働環境に対して労働者があげた声,人種や民族,制度に基づく差別などへの反対を訴える声が,「人が生まれながらに持つ権利」を具体的な言葉で表現させてきました。これらの権利が大切であるという呼びかけが社会的な合意として認められたとき,宣言や法になりました。したがって,世界人権宣言は私たち一人一人が持っている権利のリストであると考えることができます。
 自分自身の権利を知ってもらうことが人権啓発の重要な柱になります。皆が自らの権利を知ることによって他者の権利を守ることが可能になります。また,自らの経験や周りの出来事を「人権が守られているか」という視点で検証し埋もれている権利を見い出し合意を得ていくという新たな救済も可能になるはずです。
 今,人権機関は啓発から救済へという動きの中にあります。啓発が不用になったということではなく,人権機関でなければできない啓発と救済のリンクが求められているのだと思います。それは委員個人に課せられるのではなく,協議会という組織活動が実現すべき目標課題です。一つずつ段階を追って歩んでいきたいと思っています。
(2011年06月05日)