*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【患者の権利?】


 平成24年5月25日開催の県人権擁護委員連合会の総会では,「患者の権利法をつくる会」の小林洋二事務局長を講師に迎え,「患者の権利について」という講演会が催されました。その概要をまとめておきます。

 ・基本的人権としての患者の権利
 世界人権宣言25条1項の「すべて人は,衣食住,医療及び必要な社会的施設等により,自己及び家族の健康及び福祉に十分な生活水準を保持する権利並びに失業,疫病,心身障害,配偶者の死亡,老齢その他の不可抗力による生活不能の場合は,保証を受ける権利を有する」と,国際人権規約A12条の「この規約の締結国は,すべての者が到達可能な最高水準の身体及び精神の健康を享受する権利を有することを認める」との条文が,患者の権利を主張する依拠となる。
 ・患者の権利の自由権的側面
 患者の権利は,権利概念の2つの側面から考えることができる。一つは自由権であり,それは余計な関わりを「ほっといてくれ」と遮る背景にある自己決定権の確保である。患者の同意なくして医療の対象とされない権利であり,それは自己決定権を保証するインフォームド・コンセント原則の制度化によって同意を可能にする形で権利擁護に向かっている。
 人権は侵害によって発見されるが,メディカル・パターナリズムによる患者の自己決定権の侵害があったことにより患者の権利が発見された。患者のことを思って医者が治療を決めることが行われてきたが,医療の高度化と危険度がリンクしてくる状況下で,必要性と危険性を勘案した決定は患者本人が行うべきであると考えられるように認識が変わってきた。そこから,患者に対して決定に必要な医療情報を与えるインフォームド・コンセントの概念が生まれてきて,具体的には個人情報保護法によるカルテ開示制度が2003年に実現した。
 ・患者の権利の社会権的側面
 患者の権利のもう一つの側面は,社会に対して「保証せよ」と求めることのできる権利で,必要な医療を受ける受療権,最善・安全な医療を受ける権利というものである。これは,社会に対して患者の権利を守る責務という形で機能し,国民皆保険制度の実現や,老人医療費の無料化の制度設定,医師の増員政策などが行われてきた。ところが,1980年代に入って政策の転換が行われ,医療費適正化という方針が打ち出された。その結果として,診療報酬の引き下げ,患者自己負担の引き上げ,医師養成の抑制が行われ,社会的な患者の権利は後退してきた。
 一方で,医療事故による被害が起こるようになって,安全な医療を受ける権利が注目されるようになった。ところが,安全な医療を脅かす医療崩壊を指摘する論が台頭する事態になっている。地方における医師不足,診療科目による医師偏在,モンスターペイシェントの出現などが主因とされている。裁判においても,医療事故の患者側の勝訴が半減しているという実態がある。明らかに患者の権利の後退である。
 ・医療基本法の制定を
 患者の権利を基本的人権の一つとして位置づけ,その上に医療制度を構築することが求められている取組である。そのために,医師法,医療法,薬事法,健康保険法などの法律や,医療被害救済制度,医療事故再発防止制度,医療従事者養成制度などの制度等を,患者の権利とリンクさせる医療基本法を制定することが必要である。そのための活動を今後も積極的に進めていきたい。

(2012年06月20日)