*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【曲がり道は遠い?】


 日本の海岸線の総延長距離は三万三千八百八十九キロメートルです。赤道の全周が約四万キロメートルだから,その85%に当たります。因みにアメリカ合衆国の海岸線は二万キロメートル弱で日本よりかなり短くなっています。海岸線が延びるのは,岬や半島,リアス式海岸の細かい切れ込みで凸凹に富んでいることと,六千八百を越える島が加算されるからです。凸凹を伸ばすように広げていくとどうなるかといえば,海岸線が日本と同じくらいであるオーストラリアの広さ程度になります。
 新潟市を流れる信濃川は,全長が三百六十七キロメートルであり,日本一長い川として知られています。信濃川の名は,信濃から流れてくる川ということです。この川を遡っていくと長野県に入りますが,そこでは千曲川と名を改めます。すなわち,信濃川と呼ばれているのは下流の百五十三キロメートルなのです。千曲川の名は,最上流の川上村の伝説では,大昔,神々が戦ったときに流された血潮によってできた川で,血潮が隈なく流れたことから血隈川と呼ぶようになったといわれています。しかし,一般的には,くねくねと何度も曲がって流れていることから千曲川と名付けられたいわれています。曲がりくねっているために,川筋が長くなっています。千曲川と呼ばれている部分は二百十四キロメートルとなります。
 お城まわりの道も,すぐそこに見える天守閣までは,曲がりくねった道筋になっていて,なかなか近づけない造りになっています。攻められたときの守りに有利なように仕掛けられています。視線と動線は距離の仕組みが全く異なります。簡単に思えることでも,いざ実行しようとすると,手間取るものです。ところで,天守閣のように目指すところが見えているときはいいのですが,見通しの付かないことをしているときは,あれやこれやと迷い道を行くことになります。
 悩み事に向かっているときにも,ああでもないこうでもないと紆余曲折するものです。その途上で立ち止まると,自分がどこにいるか見失います。どこに向かえばいいのかを決めるためには,自分が今どこにいるかが分からなければなりません。地図を見るとき,現在地が不詳では,どうにもなりません。道筋を知っていそうな人に相談して,先ず自分はどこにいるのかを教えてもらいます。そうすれば,進む道は自分で選ぶことができます。人権相談に立ち寄る方は,どうすればいいのかを知りたいというより,自分がどこにいるかを知りたいのではないかと思うことがあります。共感することで安心されるというのは,自分の現在位置を確認できたからなのでしょう。
 共感に至るためには,相談を受けた者は,相談者の歩む右往左往の道をつかず離れずにしばらくは伴走しなければなりません。同行者がいるということが安心を与えるからです。曲がりくねった道は必ず終わりがあり,拓けた場所に出てきます。通り抜けたところで,見晴らしが効くので,次の一歩に自信が持てます。自分の意思で踏み出せるのです。闇を共感しつつ迷い道でも先に進んでいるという歩みが,相談者に寄り添うということです。
(2013年03月06日)