*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【幻のあいさつ】


 中学生の人権作文コンテストで優秀賞の生徒さん方との表彰式・懇談会に出席をしました。会長代理であったので,もしかしたら挨拶があるかもしれないと,準備をしていたのですが,法務局側の司会の中で,挨拶は割愛されて進行されました。心なしか締まりのない会になったように感じたのは,肩すかしのせいばかりでもなかったようです。ところで,中学生に向けて話しておきたかったことは,以下のような内容でした。

 優秀な成績を収められて本日表彰される中学生の皆さん,おめでとうございます。
 作文の課題が「人権」ということで,皆さんはまず「人権とは?」という問について考えたことでしょう。考える手掛かりを求めて,「生きる」ということに向き合い,自分や周りの人の生きる姿の中に,何かしらの生き辛さを見つけました。大事なものは見えないものですが,無くしたときに気がつくものです。生き辛い,そこに人権が在りました。皆さんは生きていく上でなくてはならないものを見つけ,文章にすることによって「伝えよう」と鉛筆を走らせてくれました。
 書き進むうちに「伝えたい」と思う気持ちになってきて,自分の生きることに重ねていく終わりに近づくにつれて,「伝えなければ」という確信にまで高まってきました。そのプロセスが作文の言葉の運びにありありと現れていました。文章を書いていくことで成長されたことが,伝わってきました。読む者に感動を与えるということは,書き手に訴えようとする力があふれているということです。
 人権を考えることは,生きることに向き合うことであり,その体験は人としての成長の確かな一歩となることを,示してくださったことは,主催する者にとってとても嬉しいことです。本当にすばらしい作文を寄せていただき,厚くお礼を申し上げます。これからも,この機会をよい経験として,文章をしっかりと書き続けてください。

 話を聞かされる中学生にどの程度伝わるものかは不明ですが,文章を書くことの効用についてなにがしか感じ取ってもらえればいいかなと思っていました。ただ実際には,日の目を見なかった挨拶ですので,泡となってむなしく消えてしまいました。
(2014年12月23日)