*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【新語力?】


 平賀源内は無類のウナギ好きで,朝昼晩三食でも食べたいくらいでしたが,貧乏学者の身ではいつも欲求不満気味でした。ウナギ屋で蒲焼き作りのアルバイトまでする始末で,好きだけに手つきも堂に入ったものでした。ある日店の主人が「源内さん。このところウナギの売り上げが落ちている。パーッと売れるよい方法を考えておくれ。うまくいったらお腹いっぱいウナギをご馳走しますよ」。
 そうこうするうち,ある殿様から蒲焼きの大量注文が舞い込みました。大忙しのウナギ屋。1日では作りきれないので,子の日,丑の日,寅の日の3日間せっせと焼きました。冷蔵庫のない時代で,蒲焼きを土がめの中に密封され,床下に蓄えられました。ところが,納品日に出してみたら,子,寅の日に焼いた蒲焼きは傷んでしまっていました。丑の日に焼いた分だけはちょうど食べ頃だったのですが,これも気まぐれの殿様がキャンセルしてしまいました。
 損害をなんとか最小限に食い止めなければと迫られたとき,源内の頭にひらめくものがありました。土用の時期はみんな夏ばてしている。精力回復の効有りとして売り出してみようと,「土用の丑の日,ウナギを食べて元気になろう」という売り言葉が誕生しました。
 食べたい一心という状況におかれて,一方で売れ残りそうなウナギという瀬戸際で,「丑の日のウナギ」という新たな価値を創造した言葉が考え出されました。困った状況とは身動きが取れなくなることです。そこに,新たな視点による道案内が登場して1箇所が動けば,物事全体が動き始めます。現状の中にある「丑の日」と「うなぎ」という全く無関係な言葉をつなぐだけで,新しい視点が手に入り,窮状が救われます。
 迷い道に入ったら,手元にないものを当てにするのではなく,手元にあるものの新たな組み合わせを言葉で表現してみることです。世の中が流行語という新たにひねり出された言葉によってそれまでに無かった向きに動いていることも同じです。最も困っている状況の中に,道を開く言葉が出番を待っているはずです。

(2016年08月07日)