*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

人権メモの目次に戻ります

【耳温もり?】


 「雨降って地固まる」という言葉があります。夫婦ゲンカのあと仲なおりした夫婦をいうような時によくもち出される言葉です。
 雨が降つて地面がドロドロの泥沼となっても、その後は土がきちっとしまって固くなるように、別れるの切れるのと激しいケンカをしても、いざそれがおさまってみると、お互いに普段は言えなかったことを、思いきり相手にたたきつけたことで理解が深まり、以前にも増して仲のよい夫婦になったりすることがあるものです。
 夫婦にかぎらず、世の中には周りがハラハラするほどの大ゲンカをした者どうしが、そのケンカをきっかけとして無二の親友になる、という例もありました。
 人間関係が複雑に錯綜する現代の社会では、自分の言いたいこと、不満といったものを、なかなかストレートに発露させることができなくなっています。できないから余計に不満がたまり、人が信じられなくなり、ひとりひとりが孤立してしまうことにもなります。
 そんなとき、思い切って雨を降らす。つまり思いきって言いたいことを言ってしまうと、はじめはケンカになっても、後でかえってお互いの理解を深めて固い結びつきをもたらすことにもなるだろうと思うこともあるでしょう。しかし,最近は大げんかの程度が歯止めを失って,取り返しのつかない事態にまで至ってしまうようです。雨が降る程度ではなく,大嵐になって根こそぎ壊れてしまっています。
 雨降って地固まるという成り行きには,地を固める日光や風といった第三者の関わりが不可欠です。お互いを冷静にさせ、相手の言い分に耳を傾ける温もりを醸し出す作用があるから,地固まるという修復が可能になります。
 切れやすくなっている上に,不信感にとらわれている関係のもつれには,二者間の自己修復は期待薄です。もつれをそれとなく一旦預かってくれる仲裁役が見当たらない今の状況では,第三者の意識的な関与が必要です。お互いの言い分を静かに通訳する者がいると受け入れやすくなります。相手の人権に配慮することが解決の糸口であると説く温もりが,相談を受ける者の資質となります。

(2016年11月11日)