*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【心呼救?】


 18世紀のオーストリアにアウエンブルッガーという医者がいました。酒好きで,副業として酒場を経営するほどでした。当時,お酒は樽詰めなので,いくら酒が残っているのか見当が付きかねていました。仕入れの酒量に悩ませていました。ある日たまたま,酒樽をトントンと叩いていたアウエンブルッガーが,「老い,叩いた音で,大体の酒の量が分かるではないか。何で今まで気がつかなかったのだろう」というと,傍らの使用人はうなずき返して,「そうです旦那様。人のお腹も,やせとデブでは音が違えます」。
 このとき,アウエンブルッガーは本業の医者として,ひらめくものがありました。「人体も,正常なときと具合の悪いときでは,叩くと音が違うのではないだろうか。今度診察の時,取り入れてみよう・・・」。こうして,アウエンブルッガーによって,打診による診察法が始められたのです。酒樽と人体を結びつけた独創性の賜物ということができます。

 トントンと叩くエネルギーに身体が反応して,具合に良し悪しに応じた音を返します。身体と心を結びつけて考えると,心に届くような言葉を掛けると,具合の良し悪しに応じた表現が返ってくるはずです。心の具合が良くないときに,人は相談をします。言葉のやりとりを通して,分かってほしいと訴えるのです。相談を受けるとき,心を呼んで救うという形を想定してみると,心をトントンと叩く言葉をかけて,どのような表現が返ってくるかを見届けることが寄り添うことになると気付きます。

(2017年01月01日)