*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【縁誘解?】


 終戦直後の東京は職を求める復員兵であふれていました。26歳の一人の復員兵が趣味で写真をやっていたので,その技術を生かすべく,戦友を頼って東宝撮影所の写真部を訪れました。たまたま写真部に居合わせた山本嘉次郎監督が「あの不敵な面構えの男は何者かね」と興味を示しました。「写真部に履歴書を持ってきた青年ですよ」「ふーむ,その履歴書,僕に預からしてよ。悪いようにはしないから」
 そう言って,山本は戦友から履歴書をもぎ取っていきました。折しも,第1期ニューフェースを募集中でした。後日,撮影所からの連絡で,ニューフェースの審査を受けにやってきたとき,その青年はニューフェースという言葉の意味すらも分かっていませんでした。「あの青年は態度が良くない。他の研究生への影響も良くないから落としましょう」と,審査員のほとんどがは対するのを,山本監督は「こんな混乱期には,彼のようにふてぶてしくて,たくましい面魂の男を主演にして,エネルギッシュな映画をつくらなければならないんだ」。そう言い張って,青年を合格させてしまいました。こうして,国際スター三船敏郎が誕生しました。
 カメラマンとしての道を歩むことはなかったが,もし,写真をやっていなければ,東宝を訪れることもなく,国際スターは生まれなかったに違いありません。
 人生の展開は人との縁によってつながっていますが,想定通りのまっすぐではありません。知り合いの知り合いへとご縁がつながっていくと,本人には思いもよらない展開になります。その後も,大小のご縁に誘われて,一つの充実した人生が築かれていきます。相談というかすかなご縁で,相談者は見ず知らずの人権擁護委員と出会います。その出会いが相談者の人生をどのように導くことになるのか,良い方向につながることになればいいなと願います。行き着く先は見通せないでしょうが,次の良いご縁につないであげられたらいいと思って,しばらくの時間を共に過ごしたいものです。

(2017年01月24日)