*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【程よく?】


 自動車王と呼ばれるヘンリー・フォードは,少食と適度の運動とよい空気を健康管理のモットーとしており,大実業家らしくないスマートな体型を保っていました。功成り名遂げた大実業家が肥満型になる欧米の実業界では珍しいことでした。
 あるパーティーに出席したフォードがテーブルについて見渡すと,肥満した紳士ばかりでした。一座の中の一人がフォードの細身の体型を話題にしたときです。フォードは「生活していくのにどれだけの量の食物が必要かといえば,まあ,皆さんが毎日お食べになっている食物の半分もあれば,それで十分だと思いますね」といいました。
 いささかの皮肉を感じた一人が,「そうしますと,残った半分は,いったい,何に使われるのでしょう」と軽く応酬しました。フォードはちょっと考えていましたが,にっこり笑うと「そですね。きっと医者が生活を続けていくのに使われるのでしょう」と答えました。
 フォードは半分は医者がと言っていますが,「腹八分に医者いらず」という言葉を思い出すと,共に医者が引き合いに出されて,洋の東西で同じ発想をしていることが面白く感じられます。ただ,食事の量が,半分と八分,少し違っています。欧米の方が全体として食事量がたっぷりありすぎているということでしょう。
 ところで,腹八分は働き盛りの人に対するものです。続きがあって「腹六分で老いを忘れる」となります。一線を退いた世代には,さらに減量が勧められています。活動するエネルギー収支の絶対量が変わってくることに応じるという発想です。美味しさを求める食欲に惑わされると,つい過ぎてしまうことになります。
 身体の健康と同様に,暮らしの健康も大事です。何か不都合なことが起こる前には,バランスのずれが起こっているはずです。相談事に至る前に,「思い八分に相談いらず」と気付いてもらえればと思います。八分でも,六分でも,半分でも,状況に応じて,程よくという配慮が必要でしょう。
(2019年02月13日)