*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【与先?】


 二宮尊徳は,親戚に当たる民次郎を預かって働いてもらっていました。人はよいのですが生活力のあるほうではないので,一家を構える年になって国に返すに当たり,人の間で生きていく心がけを話して聞かせました。
 「あるとき,家に一丁しかない鍬が壊れてしまった。近くの家に借りに行ったら,そこの老人が『畑を耕して,菜の種をまこうとしているところじゃ。終わるまで貸せないね』という。そこで,私が『その畑を耕してあげましょう』といって耕し終わったところで『菜の種もついでに蒔きましょう』といって蒔くと,老人はニコニコ顔で『鍬だけでなく,足りないものがあれば,なんなりと言ってきてください。いつでも貸してあげますから』といってくれたことがあった.こうした心遣いがあれば,万事がうまく運ぶものだ」
 民次郎はすっかり感激して,元気よく国元へ旅立っていきました。
 人は衣食住に関わるモノを獲得しなければ生きてはいけません。狩猟採取の時代ならいざ知らず,現在では必要なモノを周りの人から受け取るということになります。取り合いをすれば争いになりかねません。そこで人は知恵を編み出して,交換をするようになりました。モノの交換,労働とモノの交換です。お互いが取り合うのではなく,与え合うのです。世間の取引はギブアンドテイクが原則ですが,もう一つギブが先であるという知恵が隠されています。テイクを先にしようとするとこじれて争いになるのです。人間関係はドウゾと与えるからアリガトウと受け取ることができるのです。
(2019年04月30日)