*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【二耳?】


 最初の文部大臣である森有礼は、阿常と結婚していましたが、阿常に恋人ができたので別れて、岩倉具視の妹の寛子と再婚しました。
 薩摩藩士の生まれで西洋かぶれの有礼は蝶ネクタイでテーブルに向かい、一つ一つ運ばれてくる西洋料理をナイフとフォークで食べます。ところが公家のお嬢様の寛子はあっさりとした日本料理が食べたくてたまりません。いつしかお茶漬けが悲願になりました。
 あるとき、有礼が国内視察に出かけることになり、寛子は念願のお茶漬けが食べられると喜び、ご満悦でした。早速コックにお茶漬けを作らせようとしましたが、その機先を制するように、コックが西洋料理を運んできました。「奥様がお茶漬けを食べたいと言うかもしれないが、食べさせないようにとご主人様のお申し付けがありました」。女性解放論者でもあった有礼も、妻の食事の好みまでは解放できなかったようです。
 日々の暮らしの重要な部分である食事で満たされないという状況は、当事者にとってはかなり不都合なことです。今現在のこととして助言するとすると、お茶漬けを食べる機会があるべきだと有礼に啓発することになりますか? それとも夫婦のことに他人は口を挟まないということになりますか?
 幼い子どもがしつけにこと寄せて食事を与えられずに亡くなりました。側にいる者が聞く耳を持たないと、周りに不幸をもたらすという事例です。情報社会は話す口だけの世界ではありません。話すことの2倍聞くために、耳は二つあるということに気づいてほしいものです。
(2021年04月09日)