*****《ある町の人権擁護委員のメモ》*****

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【思野?】


 ギリシャの大富豪アルチビデスが,ソクラテスに向かって,自分がどんなに広大な土地を持っているかを自慢げに話しました。ソクラテスが国中にその名を知られた人物であるのに,極めて貧しいことを皮肉ったのです。すると,ソクラテスは当時考えられていた一枚の世界地図を出して「あなたの所有地というのは,この地図のどの辺にあるのですか?」と尋ねました。
 「冗談じゃありません。私の土地がどんなに広くても,世界地図に出ているはずはありませんよ」。アルチビデスは答えました。ソクラテスはアルチビデスの顔を気の毒そうに見ながら,言いました。「そうですか。この地図には載っていませんか。地球の一部にも当たらない土地を持っているからといって,自慢するほどのことはないでしょう」。冨とは,人のために役立ててこそ価値があることを,ソクラテスは大富豪に諭したのです。
 人は自分のことについてメガネを通して見ています。さらに,他者も自分と同じメガネで見ていると思っています。土地を持っているというメガネで自分を捉えて満足していると,持っていない人の不満足さを見届けることができます。その結果として,自分の幸せを感じようとしているのでしょう。とても自分に都合の良い物事の捉え方です。
 このメガネは気をつけないと逆に掛けてしまい,自分に不都合な物事を見せられることになります。他者が持っているものを,自分は持っていないといった不満足を思い知らされます。視覚情報機器の発達に比例して,視野は限りなく広がっています。イイネの世界にいると,自分にあるものの不満足が増幅され,不幸せな自分が思い知らされます。物事を見る視野という言葉はよく知られていますが,物事の価値を考える思野の持ち方も気をつけたいものです。見たままの視野から,自分にとって大切な価値を見届ける思野を意識したいものです。
(2021年06月06日)