*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****
【人権擁護機関の報告から(3)相談・侵犯経年対比】
毎年5月末に,人権相談と人権侵犯の年次報告が公開されます。年毎の報告なので,経年変化を見るためには,自分なりに集計分析作業をしなければなりません。本編では,人権相談と人権侵犯の人権問題の種類毎の割合が平成25年と令和5年の10年間でどのように変動しているかを概観してみることにします。
概要を見る図面構成は,
令和5年における「人権侵犯事件」の状況について(概要)法務省の報道発表資料
を参考にします。この報告では,侵犯事件総計の経年推移のグラフも添えられていますが,種別毎の変動は昨年からの変化という指摘に止まっています。
人権状況の変動を大枠で把握するために,10年の変化を見ておきます。先ずは,相談の種別の動向を見ることにします。
10年間で大きく変わっているのは,「住居・生活の安全関係」が平成25年の22%から,令和5年の10%へと激減しています。「学校におけるいじめ」もわずかに割合は減少しています。一方で,「プライバシー関係」と「労働権関係」がわずかに増加しています。
次は,人権侵犯事件の種類別の変化です。
「プライバシー関係」が,8%から17%へ,「労働権関係」が7%から17%へ,「差別待遇」が3%から9%へと,割合が大幅に増加しています。一方で,「学校におけるいじめ」は18%から13%に,「暴行・虐待」が20%から12%へ,「住居・生活の安全関係」が14%から8%へと,減少が目立っています。
「住居・生活の安全関係」が相談・侵犯ともに減少しています。この10年間での状況の変化は地域という場での人間関係が希薄化している状況により摩擦やトラブルが起こりにくくなっていると思われます。
一方,「プライバシー関係」での相談・侵犯の増加は,情報社会の進展による侵害の発生の増加,「労働関係」での相談・侵犯の増加は,パワハラやカスハラといったハラスメントの認識の浸透が寄与していると思われます。
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「暴行・虐待」と「強制・強要」という形の侵害がどのような人間関係の中で起こっているのかを分析するために,その種類分けの視標である人間関係に注目すると「家族関係」という特徴が大勢を占めています。そこで,暴行・虐待と強制・強要の事例を,家族間,家族外(その他に分類),セクハラストーカーという種類に分け直してみます。その結果が次の図面です。
相談と侵害の双方の傾向で,「家族間の侵害」は10年間で減少をしています。「暴行・虐待」や「強制・強要」の侵害は主に家族間,つまり,夫から妻に,妻から夫に,親から子に,子から親にという家族の問題であるという認識が必要なのです。最も信頼し合うはずの家族に人権侵害が起こるという事実を再確認すべきです。
以上,10年間の長期の変動を見ることで,感じている状況の変化を割合という具体的な数値として把握することができます。ここでは大きな種別について分析しましたが,個別の侵犯事案について分析することも可能です。
(2024年08月04日)