*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****
【人権侵犯事件統計より:事例別推移(福岡:1)】
令和6年5月末に令和5年の人権侵犯事件統計が公開されました。その一部に「種類別人権侵犯事件の受理及び処理件数」があります。人権侵犯事件を人権擁護機関が種類別に処理してきた推移を見ておきます。私人間と公務員関係のそれぞれの扱い総数に対する種類別の事例の割合を概観します。
統計では,侵犯の種類別に処理件数が報告されています。ここでは,平成18年から令和5年までの福岡県の総計を個人的にまとめた
侵犯事件種類別推移表
について,福岡県における内容別割合の年別推移を分析してみました。結果は、以下のグラフのようになりました。活動の参考にしてください。
最初に,福岡県における各年毎の人権侵犯事件受付件数の推移をグラフに示します。
私人間の推移については,全国集計では平成年間にゆっくりと減少の傾向があり,令和に入ると急激に減少をしていましたが,福岡局では平成20年代初めにピークを示していますが平均して400件に落ち着いています。公務員関係についても福岡局の私人間の推移に似た傾向を示しています。
次に侵犯事件の中でいくつかの内容種類について,その推移を分析していきます。各年毎の事件総数に対する侵犯の種類の件数の割合を計算しています。
●まずは,暴行・虐待事例について,夫の妻に対する割合の推移を見てみます。
最近10年の推移は全国の傾向と似て福岡局でも半減するという状況を呈しています。女性に対する暴行・虐待に関しては,人権擁護機関だけではなく,自治体などを含めて相談機関が増えていることが影響しているのかもしれません。
●次は,強制・強要事例について,夫から妻に対する割合の推移を見てみます。
全国では全体的には割合は減少の傾向でしたが,福岡局では平成末期に急増し令和にかけて落ち着いた推移をしています。全国の分析にも触れたように,具体的な事例を明確にアピールしていく具体的な侵害の広報が必要でしょう。
●暴行・虐待事例について,親の子に対する割合の推移を見てみます。
全国では平成25年までは増加し,その後は一定に止まっていますが,福岡局では平成の終わりの時期に急激な落ち込みをした後,増加して定着の様子が見えています。今後の対応は全国での提言と同じで,推移が増えていないことは良いとしても,閉じた関係の親子に潜む虐待が沈下していないことは,外部からの見守り支援が限界に直面していることを示していると思われます。特に,訴えることができない子どもの心情につながるルートの充実が求められます。
●差別待遇事例について,高齢者・障害者についての割合の推移を見てみます。
福岡局での推移の様子は件数が少ないことから変動が大きくなって,推移の特徴が見えてきません。全国の傾向から見えてくる対応を参照しておきます。
障害者に対する差別待遇は,平成28年まではゆっくりと増加して,その後一旦減るかに見えて令和に入るとゆっくりと増加の傾向が見えます。障害者に対する差別については状況が不安定に動いていると察することができます。障がい者差別解消という動きが浸透することで,侵犯という判断をする機会が増えてくるでしょう。今後の地道で効果的な啓発などが必至です。
高齢者に対する差別待遇については,ほとんど一定の割合に推移しています。具体的な事例をもとに,個別の侵犯を一つ一つ減らしていくような啓発を進めるべきです。
●差別待遇事例について,同和問題の推移を見てみます。
全国の傾向と同じで,令和に入って急激な増加を示しています。人権擁護機関としての侵犯処理が急増しているという現実が見えています。その背景については,事情が不明です。気をつけておきます。
全国の分析に合わせて福岡局における人権侵犯の対応の推移を見てきました。社会状況の変動に左右される部分もあるでしょうが,人権擁護機関としてあるべき姿と付き合わせて,救済活動への注力の自覚が求められている部分も浮き彫りになってきます。それぞれの具体的実践に寄り添ってできることを考える委員の気概が期待されています。
(2024年09月15日)