*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****

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【共生社会と人権:その2】


 令和6年10月,ある団体から講演の依頼を受けました。先日そのお役目を終えました。その時の話を採録しておこうと思い立って,数回に分けてお届けいたします。聞きたいという方を前に語ったことが,どのように伝わったのか分かりませんが,一つでもそうなのかと思って頂けたら幸いです。よろしかったら,お付き合いください。
 講演で依頼されたテーマは「共生社会と人権」でした。依頼された団体は障害のある方と民生児童委員,人権擁護委員の方々です。この前提で話を組み立てています。講演録の第2回分です。

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【2】人権について

 法務省主催のシンポジウムでは,持続可能で多様性と包摂性のある社会を実現するには,「人権の尊厳」を社会全体の連帯を支える中核的理念とすると説明がされていました。そこで,これから,法務局で関わっている人権について概要を見ていくことにします。
 人権について啓発の際に配布されるパンフレット「人権の擁護」の冒頭に,下図に見られるように人権について説明がされています。
人権の擁護の冊子です
 人権とは,それぞれの「幸福を追求する権利」あるいは人間が「人間らしく生きる権利」である,とあります。さらに,誰でも心で理解し,感じることができるものです,とも説明されています。なぜ2つの定義のような語句が併置されたり,感じるものとされたりするのでしょう。つかみどころのない感じがします。この捉えどころがないイメージをもう少し具体的な形にできないものか,挑戦をしてみようと思います。
 ただ,現時点で言えることは,個人が自分の幸福を追求する権利であり,人間として他者との関係で人間らしくすべき権利と,次元の違いが窺えることです。先を急がず順を追っていきます。

 先ず,法務局で人権問題として強調事項に取り上げて寄り添っている人はどのような人か,確認しておきましょう。
 ○女性の人権  ○こどもの人権  ○高齢者の人権  ○障害を理由
 ○部落差別(同和問題)  ○アイヌの人々  ○外国人の人権
 ○感染症患者  ○ハンセン病患者・元患者,その家族
 ○刑を終えて出所した人,家族  ○犯罪被害者,家族
   ○インターネット上 ○北朝鮮による侵害  ○ホームレス
 ○性的マイノリティ  ○人身取引  ○震災等災害に起因

 以上,人権侵害を受けている人は,性別,年齢,その他の区分けやそれぞれの事情などによる17領域に含まれる人たちであると想定されています。「多様性」という認識を向けることで侵害は消えて,支援に向かうはずです。

 次に,令和4年11月に内閣府から発表された「人権擁護に関する世論調査」の結果を参照してみます。
 日本における人権問題について,「関心があるのはどのようなことか」を聞いた結果は次図のようなものでした。
R4人権調査_関心割合です
 選択肢は侵害を危惧している先の17項目です。最近注目を集めている「インターネット上の誹謗中傷」が伸びてきています。さらに障がい者や子ども,女性に関する問題に関心が持たれているという現状が窺えます。

 「自分の人権が侵害されたと思ったことがあるか」という問いに対して,「ある」と答えた者の割合は27.8%,「ない」と答えた者の割合は71.0%となっています。人権が侵害されたことがあると答えた者に「それはどのような場合か」と聞いた結果は次のようになっています。
R4人権調査_侵害内容です
 「あらぬ噂,他人からの悪口,かげ口」を挙げた者の割合が54.4%と最も高く, 以下,「職場での嫌がらせ」(30.1%),「名誉・信用のき損、侮辱」(22.9%),「プライバシー の侵害」(18.8%)等の順,にとなっています。各人の個性が尊重されず,共生から排除されている具体的な状況を示しています。
 ただ,人権を守っていく活動を進めるためには,これらの事例が被害者のどのような権利を侵害しているのかを明らかにしていかなければなりません。この点については,後で論を進めます。

 侵害の被害者への影響を分析する素材として,「高齢者」「障がい者」に関して,体験したことや,身の周りで見聞きしたことで,人権問題だと思ったことはどのようなことかを聞いた結果が,次の2つの図です。
R4人権調査_高齢者です
 高齢者に関しては,「悪徳商法、特殊詐欺の被害が多いこと」を挙 げた者の割合が44.7%と最も高く、以下、「病院での看護や介護施設において劣悪な処 遇や虐待を受けること」(33.6%)、「高齢者が邪魔者扱いされること」(31.7%)等の順 となっている。高齢者であることがマイナスの対応を強いられています。
R4人権調査_障がい者です
 障がい者については,「職場、学校などで嫌がらせやいじめを 受けること」を挙げた者の割合が43.3%で最も高く、以下、「じろじろ見られたり、避 けられたりすること」(40.7%)、「差別的な言葉を言われること」(38.9%)、「就職・職 場で不利な扱いを受けること」(38.2%)等の順となっている。障がい者であることもマイナスの対応を招いています。
 高齢者や障害者について向けられるマイナスの対応という侵害は,その他の人にも当てはまっています。いろいろな侵害状況があるという実際を,どのように整理することができるのか考えなければなりません。漫然と侵害であるという認識では,対応は進みません。問題を分析する指標を創作することを,以後の展開課題とします。

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 講演採録の第2号は以上です。次号では,人権の侵害だけではなく,擁護について,論を進めていく予定です。

(2024年11月03日)