*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****

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【共生社会と人権:その7】


 令和6年10月,ある団体から講演の依頼を受けました。先日そのお役目を終えました。その時の話を採録しておこうと思い立って,数回に分けてお届けいたします。聞きたいという方を前に語ったことが,どのように伝わったのか分かりませんが,一つでもそうなのかと思って頂けたら幸いです。よろしかったら,お付き合いください。
 講演で依頼されたテーマは「共生社会と人権」でした。依頼された団体は障害のある方と民生児童委員,人権擁護委員の方々です。この前提で話を組み立てています。講演録の第7回分です。

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【4】人権羅針盤の構築について

 第4回の話の中で,各種の人権宣言や条約などを「幸福を追求する権利」及び「人間らしく生きる権利」という二つの主題に添うようにまとめてみようと試みています。その続きです。お急ぎの方はスキップして後の号での結論にお立ち寄りください。

人権宣言等一覧表です
 この表を横向きに6つに切り分けて,それぞれについて共通な特徴を抽出してきました。ここで,キーワードを一望できる形でまとめた図表として「人権羅針盤」を提案しておきます。

(7)人権羅針盤の構築:5W1H
 権利宣言等を6つの視点から分析整理をしてきました。それぞれを6つの方向に配置して,キーワードを添えてまとめてみました。

人権羅針盤です
 先ず中心に置いた「私」の周りは,「決断」,「安心」,「表現」,「参画」,「希望」,「成長」という私の幸せ権利の要素です。ここで,幸せでは無い状況として,決断ができない「逡巡」,安心に逆らう「不安」,表現をあえてしない「隠蔽」,参画をしたくない「脱退」,希望を持てない「絶望」,成長に逆らう「停滞」を追加表記しておきます。

 私の幸せに隣接する周り(緑色の部分)には相互関係で生じる6つの「間」の状況,「自由」,「平等」,「真正」,「博愛」,「持続」,「共生」が表示されることになります。
 ここで,少し補足が求められるかもしれません。間の状況として,自由・平等・博愛は馴染みがあるはずなので,違和感は無いでしょう。一方他の3つ,真正・持続・共生については落ち着かない感じがすることでしょう。そこで,真善美という価値観を思い出して頂きます。表現における「真正」はその一端であり,大切な条件であることは自明です。希望においては,「美感」が必須の感性になります。少し説明を加えておきます。人は花を見て美しいと感じます。花は受粉のために咲きますが,その目的は次世代への命の持続です。明日に向かう営みを人は美しいと感じて共感できるのです。赤子を抱く母親の美しさも希望への讃歌です。明日に向かって持続する希望は美しいのです。
 また,成長においては,「善行」が必須の要件になります。人は一生成長の途上にあり常にできないことがあります。その弱いところのある人を助けることは善行であり,その結果として人は共生していくことができるのです。成長に向けて支援し合うことを善行として意識し合う世間であればこそ共生が実現できているのです。

 最外殻には私たちがお互いに対して望ましい関わり方である「尊重」,「信頼」,「理解」,「互恵」,「期待」,「支援」と,それぞれに望ましくない関わり方である「束縛」,「差別」,「否認」,「排除」,「否定」,「妨害」を併記しておきました。

 以上を,それぞれ6つのブランチで括っていますので,具体的な状況の分析には便利に使えるはずです。その導入として,いくつかの事例を見ておきましょう。共生社会と人権,その2で紹介した世論調査「侵害されたと思うこと」の結果を人権羅針盤に振り分けた結果が,次の図です。

世論調査侵害の人権羅針盤表示です
 先ずは,侵害されたと思う事柄が人権のどの部分に結びつくのかという振り分けが,具体的にできるので,侵害の意味づけが明確になります。例えば,「名誉の毀損」は「尊重し合う」人権の侵害として「不名誉への束縛」を強いることで自由の侵害になります。
 また,調査結果の各項への割合を着目すると,最大の54%である「噂・悪口・陰口」が「真正な表現」を侵害していることになり,表現という領域が「侵害」を最も起こしやすい,感じやすいことが窺えます。続いて,30%である「職場での嫌がらせ」は,安心という領域の侵害となる「差別」を人はしてしまい易いことを示しています。
 割合は高くはなくても,6つの人権領域毎に侵害が起こっていることは明らかです。侵害の頻度は少なくても,侵害されることによる痛みはどの領域でも変わりはありません。その痛みがどのような類いのものであるかを理解することができれば,侵害の防止に役立つはずです。

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 講演採録の第7号は以上です。次号では,「人権羅針盤」を用いた世論調査に示されている侵害状況の分類例について,続きをお示しする予定です。

(2024年12月08日)