|
|
【生きる羅針盤の提案(38):影響力6原理】
人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,人権という言葉が目指すものに言い換えると人が穏やかに生きるための羅針盤と考えなければなりません。だからこそ,先に示した子どもの育ちを考える羅針盤としても有効になることができたのです。ここでは,「生きる羅針盤」としての様子を描き出しておくことにします。ふと立ち止まって,「生きるとは?」という疑問に出会った際に,その思考のお手伝いができたら幸いです。
「私が生きる羅針盤」を考える第38版です。チャルディーニの著書『影響力の武器』で紹介されている「影響力の6つの原理」は,どのようにして人が他者からの影響を受け,意思決定を行うのかを説明しています。これらの原理は,ビジネス,マーケティング,交渉,そして人間関係においても非常に重要なツールとなり得ます。その6つの原理を,生きる羅針盤に参照してみました。影響力を上手に駆使できるような手がかりになるかもしれません。
【2.決断の一貫性】
《説明》一度何かにコミットすると,それに対して一貫した行動を取ろうとする心理です。人は,過去の選択や発言に基づいて行動を一貫させたいと考えるため,最初に小さな承諾を得ることで,次に大きなお願いがしやすくなります。例えば,最初に小さな寄付をお願いすると,その後に大きな寄付も引き出しやすくなります。
※影響力を発揮するためにできることは,もう一人の自分が判断し決断したという実績を尊重することです。自分が決めたことに間違いはないという流れに沿って,最初は軽いものからはじめて,次第に重いものへと,気持が途切れないように,決断してもらいます。ただし,急ぎ過ぎたり,無理な決断を迫るのは,しないことです。
【3.社会的証明】
《説明》他の人が何をしているかが,自分の行動に影響を与えるという原理です。特に,多くの人がある行動を取っている場合,それが正しい選択だと感じやすくなります。例えば,レストランの口コミサイトで高評価が多いと,その店に行きたくなるのは,社会的証明の効果です。
※影響力を発揮するためにできることは,評判などの皆の評価を見える化して,広く示すことです。判断の材料として,経験した人たちの感想を聞くことは,ごく自然なことです。また,世間的に流行しているものには関心が引き寄せられます。自ら評価する手間が省けるだけはなく,多くの人の評価という保証を得ていることになるからです。皆と一緒という安心感が得られます。
【5.権威的推奨】
《説明》人は,権威を持つ人物や専門家からの指示やアドバイスを受け入れやすくなります。ブランドや製品の信頼性を高めるために,権威ある人物の証言や専門家の推奨が利用されることが多いです。例えば,医師が勧める商品は,信頼性が高いと感じられ,購買意欲を高めます。
※影響力を発揮するためにできることは,それなりの敬意を受ける応援者による推薦を形にすることです。そのことによって保証効果が付加されることになります。対象となるものに対して,その効果や機能についての有効性,信憑性,確実性などが信じられるようになります。これは本物,そう思うように導かれていきます。
【1.返報性心理】
《説明》「何かをしてもらったらお返しをしなければならない」という,人間の根本的な心理です。これをビジネスやマーケティングに応用すると,例えば無料のサンプルやサービスを提供することで,顧客に恩を感じさせ,その後の購入や契約に結びつけることができます。このように,店頭で試食品をもらった後,何か購入したくなるのは,返報性の心理が働いているためです。
※影響力を発揮するためにできることは,ささやかであっても,社会的な関係を取り結ぶことです。何らかの関係を持ったという経験が入り口になって,次の関係に入りやすくなります。ごく普通に結び合っている人間関係であるという認識を得て,ごく日常的なやりとりとして実行されていきます。ギブアンドテイクという,当たり前の関わりは,警戒心を抱かずに受け入れられるはずです。
【6.希少性価値】
《説明》人は,手に入りにくいものや限られたものに対して,強い価値を感じます。希少性を利用することで,緊急性や限定感を作り出し,消費者に購入を促すことができます。例えば,「限定商品」や「期間限定オファー」は,希少性の心理を活用したマーケティング手法です。
※影響力を発揮するためにできることは,時間の経過に沿う状況への変化を強調することです。今しか手に入らない,他にはない,この場でこの瞬間という限定によって,受容の判断を迫ることです。自分との出会いのチャンスは,今を逃せばもう巡ってこない,そのように追い詰められて,つい手を出してしまうことになります。私だけに巡ってきた好機,その限定に取り込まれるのが人の弱さです。
【4.好意的関係】
《説明》人は,好きな人や信頼している人からの影響を受けやすくなります。好意の原理を活用することで,商品やサービスの販売促進に効果を発揮します。顧客と良好な関係を築いたり,共感を得ることが鍵となります。例えば,セールスマンがフレンドリーで共感的であればあるほど,顧客はその人から商品を買いたくなります。
※影響力を発揮するためにできることは,当人のこれからの状況を良くしたいという願いを意識させることです。この人との関係を続けたい,より深めたいという今後への期待を実現するためには,相手にとって喜ばしいことをしなければ,してあげたいと思うはずです。そのためには,相手にとってそれなりの魅力のある人物であることが必須になります。
○以上,影響力を発揮するためにできることを,「生きる羅針盤」に対応させてもらいました。これまでの対応事例と同じように,あまり違和感もなく整理をすることができているはずです。それぞれの想定している世界観における具体的な表現は違っていても,人が思い至る幸せに生きる境地は本質的に同じ構造になっているようです。それぞれを別個にしておかずに,まとめていく作業から,人の生き方について深い理解が得られるのではないかと期待しています。
******************************************************************
社会に真剣に向き合って生きていくことは,人として誰もが願っていることです。ただ人には本能から派生する弱さもあります。その弱さを押し込めていく意思が必要になります。そしてその意思は目標を必要とします。それが羅針盤なのです。
人としてすべきことから外れないようにすることは大事であり,それは誰にとってもできることであり,気持ちの良いものです。しあわせは誰かだけにあるのではなく,皆に同時にあるものです。権利を守る,言葉は堅く響きますが,人として生きていく自然な姿であればいいのです。
(2025年10月26日)
|
|
|