| 
 
 
 | 
【生きる羅針盤の提案(39):認知低下5口癖】
 
 人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,人権という言葉が目指すものに言い換えると人が穏やかに生きるための羅針盤と考えなければなりません。だからこそ,先に示した子どもの育ちを考える羅針盤としても有効になることができたのです。ここでは,「生きる羅針盤」としての様子を描き出しておくことにします。ふと立ち止まって,「生きるとは?」という疑問に出会った際に,その思考のお手伝いができたら幸いです。 
 
 「私が生きる羅針盤」を考える第39版です。認知症は誰にでもなる可能性があるため,口癖が認知症を直接的に引き起こすわけではありません。しかし,口癖は考え方の癖が習慣化して現れます。ということで,認知症になりやすい人の口癖を5つ紹介している情報がありましたので,生きる羅針盤に参照してみました。対応にいくらかの参考になるでしょう。 
 
 
 
【2.意志決定を回避】 
《説明》A「なんでもいい」という自己決定をしない口癖です。 
   娘「お母さん,今日のご飯何食べたい?」 
   母「なんでもいい」 
   娘「食べたいものは何もないの?」 
   母「とくにないよ,決めていいよ」 
 自分の意見を言わずに,意思決定を相手にゆだねてしまう口癖も要注意です。脳は考えることで活性化しますが,自分で考えずに人にばかり任せてしまうと考える機能が衰えてしまいます。 
 
※認知できるということは,自分の意志を決めることにつながります。自分が今何を食べたいかを,もう一人の自分が感じ取ること,それが自己認知です。もう一人の自分が自分から目をそらしている,見ることを忘れてしまう,そのような,自分を認知できないという状況が認知症といえるのでしょう。 
 また,「怒りっぽくなった」,「塞ぎ込んで何をするのも嫌がる」という態度が表れると,外に向けても内に向けても,もう一人の自分が自分を適切に導く力を失っていて,自分を認知不能に陥っていることになります。 
 
【1.変化対応を否定】 
《説明》@「今時の若い人は〜」といった形で,他者を非難する口癖です。 
   「今時の若い人は我慢ができない」 
   「今時の若い人は根性がない」 
 認知症は加齢による認知機能の低下に伴い,周囲の変化に適応する柔軟性が失われていきます。認知機能とは物事を理解・判断したり,予測を立てたりする機能です。周囲の変化を受け入れられない,批判的な口癖は認知症になりやすいといわれています。 
 
※認知できるということは,変化を見届けて,その価値を見極めることです。若い人に体現している時代の変化を理解しないと,その変化に適切に対処することができなくなります。時代に置いていかれるという脱落を招きます。人として生きる力,それは変化に応じていける柔軟さです。人の有り様が同じであるという自覚が安心につながります。自分は違っていると思いたくないので,他者の変化を責めたくなるのです。変化を責めるのではなく,変化に馴染んでいくことを認知することが大事です。 
 また,「一人になることを怖がる」という態度が表れると,姿が見えなくても自分は見守られているというつながりを信じられなくなっています。みんなの中の自分という人間関係を認知することができなくなっています。 
 
【補足:同じことの繰り返し 】 
《説明》・・・・。 
 
※認知できるということは,論理的な展開ができることです。話が次々に先に進んでいくべきなのに,同じことを繰り返すのは,対話という形式の認知が働いていないことです。何かを言って,それに周りが答えてくれても,その答えの意味が理解できないために,先に進めません。言われたことを認知できないことは,対話の言葉が不随に陥っているのでしょう。 
 
【4.参画活動を喪失】 
《説明》C「やることがない」と,自分の行動が見えない口癖です。 
   「仕事を辞めたら何をしていいかわからない」 
   「やることがなくて毎日が退屈」 
 退職すると自由な時間が手に入る反面,仕事が趣味だった人や日々の楽しみがない人は,1日が長く感じてしまいます。刺激のない毎日は,脳を急速に老化させてしまうため注意が必要な口癖です。 
 
※認知できるということは,自らの活動を通じて他者とのつながり,社会性を確認の上実感できることです。仕事や暮らしが毎日同じパターンで過ぎているときは,慣れてしまってことさらに意識しないで済んでいますが,パターンに変化があると,目的も内容も消えてしまうので,呆然となってしまいます。生きているために必要な活動を,身近な人間関係の中で意識することが必要です。社会性の認知です。 
 また,「財布や通帳などを盗まれたと言う」言動が表れると,社会性が全く壊れてしまっていて,互恵的な関係の認知ができなくなっています。自分に大事な金銭的価値の行方を確認できない不安に包まれ,決まりや約束という保証を認知できなくなっています。身近に見えるように対応することも大事です。 
 
【3.加齢自覚で辞退】 
《説明》B「もう年だから」と,足止めをする口癖です。  
   「年をとっているから仕方ない」 
   「もう年だから動きたくない」 
 自分自身で加齢を受け入れている反面,加齢に対するあきらめや言い訳として使うこともあります。しかし他人から言われてしまうと,自尊心が傷つき機嫌を損ねてしまうこともあるため注意が必要です。 
 
※認知できるということは,自らの現状を弁えることに加えて,明日の自分につながるイメージを覚知できることです。明日へ一歩を踏み出せる希望,それが生きるという活動であるという意識を失ってはいけません。人生を見限ることが本心ではなくても,残された時間ではなく,まだ時間があるという視点による自己認知をしていたいものです。 
 また,「約束の日時や場所を間違う」ということがあると,明日という未来に対する認知が危うくなっています。物事には順序が付随するので,生きていく作業は時系列で進行するものです。時間軸に沿った物事の整理が狂ってくると,認知は混乱します。 
 
【5.意欲低下で投げ出し】 
《説明》D「もうやらない」と,途中で放棄する口癖です。 
   「もう疲れたからやらない」 
   「もうおしまい」 
 集中力が続かない,すぐに疲れてしまうといった口癖も注意が必要です。以前は好きだったことが楽しめない,したいと思えない,興味や関心の低下は認知症になりやすい口癖だといえるでしょう。 
 
※認知できるということは,物事の全体像をイメージしていて,今の自分の段階がどこにあるのかという見届けをすることです。もうやらないというのは,今の進捗を認知はしていますが,できることはしていこうという前向きな取組姿勢を保つことが大事です。生きる姿勢として,少しだけ頑張るという前向きさ,それが生きようという意欲の発露になります。生きることへの認知を失わないようにしたいです。 
 また,「料理や運転のミスが多くなった」ということがあると,段取り・手順といったことへの認知が危うくなっています。複雑な構成を整理できないで実行してしまうのは,余計なことや手抜きをしないという自己の行動の確認をしていないからです。 
 
○以上,認知症になりやすい5つの口癖を,「生きる羅針盤」に対応させてもらいました。これまでの対応事例と同じように,あまり違和感もなく整理をすることができているはずです。それぞれの想定している世界観における具体的な表現は違っていても,人が思い至る幸せに生きる境地は本質的に同じ構造になっているようです。それぞれを別個にしておかずに,まとめていく作業から,人の生き方について深い理解が得られるのではないかと期待しています。 
 
****************************************************************** 
 社会に真剣に向き合って生きていくことは,人として誰もが願っていることです。ただ人には本能から派生する弱さもあります。その弱さを押し込めていく意思が必要になります。そしてその意思は目標を必要とします。それが羅針盤なのです。 
 人としてすべきことから外れないようにすることは大事であり,それは誰にとってもできることであり,気持ちの良いものです。しあわせは誰かだけにあるのではなく,皆に同時にあるものです。権利を守る,言葉は堅く響きますが,人として生きていく自然な姿であればいいのです。 
 
(2025年11月02日) 
 |  
 
 | 
 
  |