*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****

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【生きる羅針盤の提案(43):対人5良則】


 人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,人権という言葉が目指すものに言い換えると人が穏やかに生きるための羅針盤と考えなければなりません。だからこそ,先に示した子どもの育ちを考える羅針盤としても有効になることができたのです。ここでは,「生きる羅針盤」としての様子を描き出しておくことにします。ふと立ち止まって,「生きるとは?」という疑問に出会った際に,その思考のお手伝いができたら幸いです。

 「私が生きる羅針盤」を考える第43版です。古今東西さまざまな対人心理学の研究成果を参考に,良好な人間関係を築くために最低限これだけは知っておくべき!という5つの法則を紹介している考察がありましたので,生きる羅針盤に参照してみました。誰でも期待しているけど何かが足りないと感じている人間関係について気付くことがあったらいいですね。
  ※参照先の「心理学から読み解く!良好な人間関係を築くための5つの法則」は こちらです。

生きる羅針盤の提案(対人5良則)です
【2.会話が苦手でも最初はあいさつだけでも大丈夫!意外に侮れないあいさつの力】
《説明》コミュニケーションに苦手意識を持つ人は,自己紹介がうまくできないとか,会話を盛り上げる能力がないとか,スキル面での自信のなさから,一歩を踏み出せない方も多いかもしれません。でも最初は「会話をしよう」と意気込む必要はなく,まずあいさつをするだけで大丈夫です。見ず知らずの相手でも,あいさつやちょっとした世間話をするだけで,人間は自然と友人のような親近感を持つということが,心理学の研究からもわかっています。まずは「あいさつ」という効果的で,最も低いハードルからクリアしていってみましょう。

※私たちが人とのコミュニケーションに求めていることは,まずは同じ人としてお互いの存在を尊重し合うことです。そのためには,挨拶という行為が入り口になります。朝には「おはようございます」と声をかけると,「おはようございます」と同じ言葉が返ってきます。「こんにちは」,「こんばんは」も同じです。同じ言葉を交わすことによって,同じという確認ができていきます。挨拶を交わすことで,コミュニケーションがスタートすることになります。

【1.コミュニケーションの基本は「笑顔」!「笑顔の返報性」を味方に付ける】
《説明》こちらが笑顔で近づくと,見ず知らずの相手でも笑顔になる現象のことを,心理学の世界では「笑顔の返報性」と言います。笑顔になると人間はおのずとポジティブな感情になり,他者を受け入れやすくなります。同様に,こちらが不機嫌な表情をしていたり,イライラした態度を見せたりしていると,相手も同じように不機嫌な様子になることがあります。このように相手の態度を鏡のように反映する現象を「パートナー効果」と言います。誰かと近しくなりたいとき,または何か頼み事があるときは,まずほほえみかけ,相手の笑顔が返ってきたところで希望を伝えると,良い結果が期待できるでしょう。

※私たちが人とのコミュニケーションに求めていることは,心を開いて向き合うことです。心が開いていることを示すサインが笑顔です。笑顔に接すると,人は安心します。安心できる出会い,その基本形が笑顔の交換です。緊張感がいくぶん和み,お互いを信頼し合う状況に包まれていくことで,何らかの関わりを持ち合う関係に入っていく準備が整うことになります。

【3.信頼される人は「傾聴」が上手!だから内向的でも大丈夫】
《説明》コミュニケーション能力=会話のうまさというわけでもありません。多くの人間が最も嬉しいと感じるのは,自分の話を聞いてもらえるということ。何もしていなくても,ただ「うんうん,そうだよね」とうなずいているだけでも,「あの人はいい人!話を聞いてくれた!」と,相手が好きになってくれます。内向的でトークに自信のない人は,敢えて聞き役に徹するのもいいでしょう。

※私たちが人とのコミュニケーションに求めていることは,お互いを理解し合うということです。そのためには言葉を交わす会話をすることになりますが,会話は基本的に話す人と聞く人がいて成り立ちます。そして話したいという思いが出発になるので,聞くという行為が続かないと,会話になりません。つまり,聞く人がいるから,話すことができるのです。コミュニケーションは,受けることのできる人がいてこそ完成するということを自覚しておきましょう。

【・・・】
《説明》・・・

※私たちが人との人間関係に求めていることは,助け助けられというお互い様の対等なつながりです。支え合うことによって,支合わせになることができるはずです。人間関係から生まれるしあわせを目指すことが,共生社会の目標であり,生きていく目的にもつながっていきます。この了解を持ち合える関係が構築されるように配慮していくことが大事です。

【4.人間関係に何か問題が起こっている?と気付いたら,ささいなことも見逃さずすぐ対処!】
《説明》人間関係のトラブルは,ささいな出来事が発端となりがちです。自分自身には何も心当たりがなかったとしても,自分だけ食事に誘われなかったとか,声をかけたのに無視されたとか,そういった小さな不満が積もりに積もって,大きなトラブルにつながるのです。アメリカの学校で1995年から2001年までに発生した凶悪事件を分析してみたところ,15件のうちの13件が,小さな心の葛藤が事件の要因となっていた,という調査結果も出ています。もし誰かとの関係が気まずいかもしれないと感じたら,放置せず,トラブルに発展しないうちに対処するのが得策です。

※私たちが人との人間関係に求めていることは,円満で良好な関係の維持です。現実には,配慮の不足や不慮の出来事などによって,トラブルを招いてしまうことがあります。不都合な状況に陥ったら,できるだけ早くひどくならないうちに手を打つことです。些細なことだからと軽視し放置すると,事態は悪い方に転がっていきます。人との関係は自分の思惑だけで動いているのではないので,お互いに確認し合いながら,常に明日のより良い関係を目指して慎重に維持していくことが必要です。

【5.人に振り回されないように,苦手な相手こそ先手アプローチが重要!】
《説明》誰にでも「どうも苦手・・・」という人は存在します。避ければ避けるほど,苦手意識は増幅するもの。そんな相手こそ,プライオリティを高めに設定して,積極的に話しかけるという手段が実は効果的です。こちらから声をかけたり,連絡事項があれば真っ先に連絡したりする。主導権を握れば振り回されることもなく,ふと気付けば上司からの信頼も得られ,良好な関係性になっていた,なんてことも期待できます。

※私たちが人との人間関係に求めていることは,発展的な機能の実現です。人間的な相性などによって,関係の維持に負荷がかかることもあり得ます。そのような場合は,可能な気配りや覚悟をしつつ,適切な改善を施す必要があります。特に相手による歪みは相手に直接改善を求めるよりも,こちらの対応を変えることの方が有効です。自分は変えられるからです。関係の状況は時の流れで動いていくので,冷静に感知していくことが求められます。

○以上,良好な人間関係を築くための5つの法則を,「生きる羅針盤」に対応させてもらいました。これまでの対応事例と同じように,あまり違和感もなく整理をすることができているはずです。それぞれの想定している世界観における具体的な表現は違っていても,人が思い至る幸せに生きる境地は本質的に同じ構造になっているようです。それぞれを別個にしておかずに,まとめていく作業から,人の生き方について深い理解が得られるのではないかと期待しています。

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 社会に真剣に向き合って生きていくことは,人として誰もが願っていることです。ただ人には本能から派生する弱さもあります。その弱さを押し込めていく意思が必要になります。そしてその意思は目標を必要とします。それが羅針盤なのです。
 人としてすべきことから外れないようにすることは大事であり,それは誰にとってもできることであり,気持ちの良いものです。しあわせは誰かだけにあるのではなく,皆に同時にあるものです。権利を守る,言葉は堅く響きますが,人として生きていく自然な姿であればいいのです。

(2025年11月30日)