【生きる羅針盤の提案(21):幸福高揚習慣】
人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,人権という言葉が目指すものに言い換えると人が穏やかに生きるための羅針盤と考えなければなりません。だからこそ,先に示した子どもの育ちを考える羅針盤としても有効になることができたのです。ここでは,「生きる羅針盤」としての様子を描き出しておくことにします。ふと立ち止まって,「生きるとは?」という疑問に出会った際に,その思考のお手伝いができたら幸いです。
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「私が生きる羅針盤」を考える第21版です。今号では,幸福感を高める7つの習慣という論考について,生きる羅針盤に参照してみましょう。
【感情支配力を高めよう】
《説明》5. 感情ジャーナリングで「感情コントロール力」を高めよう
日々をよい気分で過ごすには,感情に振り回されないことが重要。それには "日記" が有効のようです。感情的な体験を書く行為により,脳の感情をつかさどる部位である扁桃体の活動を抑えられ,感情をコントロールできることが明らかになったそうです。おすすめなのが、感情ジャーナリング。嬉しかったことや後悔していることなど,自分の心の奥底にある気持ちに焦点を充て,ありのままに書いていくというものです。ポイントは,最後にポジティブな言葉で締めくくることだそう。毎日決まった時間にノートを開き,自分のありのままの気持ちと向き合う習慣をつけてはいかがでしょうか。
※幸福感を高める習慣としては,もう一人の自分が自分をしっかりと統括していることが基本になります。そのためには,説明にあるとおり,自らに素直に向き合い,ポジティブな判断により自らを認める決断をすることが望ましいのです。自分が何を選び何をしようと決めることは,誰の指図もなく決めてよいのです。ただし,自分以外の人に関わることは,自らに由るとはなりません。他者は他者に由るべきだからです。自らに限るという抑制を効かせる力でなければ,幸福に向かうことができなくなります。
【探求力を高めよう】
《説明》1. 新しい体験をして「探求力」を高めよう
旅行に出かけて,楽しい気分になった経験があるように,新しい場所へ行くと幸福感がもたらされることが明らかになっています。新しい場所へ行って幸せを感じた人の脳では,記憶と意欲に関わる部位の結びつきが強まります。"多様な場所,新しい場所" へ行くことが重要だとのこと。普段とは違う店に行き,珍しい品物を見たり,触ったり,新しい情報を聞いたり……。五感を活用しながら,さまざまな体験をしてみてはいかがでしょう。
※幸福感を高める習慣としては,自分を様々な状況において自分の感性が新たな反応を経験することが有効になります。人は環境に寄り添って生きていきます。その関わりからは逃れられませんが,そのあれやこれや体験から様々な多様性を感得できれば,広い観点による幸福感が会得できるはずです。狭い関わりよりも広い関わりから見える自分の姿は,深い不快意味づけを漂わせることができるでしょう。関わりを良きものと認識するできる姿勢を持つことができれば,幸福を実現する道が開きます。
【発見力を高めよう】
《説明》2. スリー・グッド・シングスを書いて「発見力」を高めよう
日頃どういう情報にさらされやすいかによって,幸福感は左右されるので,よい情報を見つける力を鍛えておきましょう。人間は本来,ネガティブな情報に注目しやすいのです。そこでおすすめなのが,"今日のよかったこと" を3つ書く「スリー・グッド・シングス」。「よいこと」を書く習慣により,脳が勝手に肯定的なことを探し,期待感をもてるようになるそうです。笑顔で挨拶ができた,同僚と楽しい会話ができた,電車から見える景色がきれいだった--日常的に "いいこと" を探す習慣が,幸福を見つける感度を高めてくれるでしょう。
※幸福感を高める習慣としては,感性にまかせた行動ではなく,理性に基づいて判断し,社会的にも望ましい意識に寄り添う手続があります。温かな,優しい振る舞いには感情が付与されていますが,だからといって感情任せな振る舞いではありません。もう一人の自分が自分の感情と自然や他者との感情の合理的な結合を確認した上でのみ可能になります。自らを律しつつ他者を生かしているという確認が良いことを言葉として見つける作業なのです。
【互恵力を高めよう】
《説明》3. 親切なことをして「与える力」を高めよう
「情けは人の為ならず」という言葉があるように,親切な行為はめぐりめぐってよい影響をもたらすようです。社会的な活動と個人の幸福感に関連があることを示す報告があります。さらに掘り下げたところ,社会奉仕活動よりも,「高齢者の荷物を持ってあげる」などの小さな親切のほうが幸福感と強い関連があったのだとか。なお,親切な行為は「週に1回」がちょうどよいとのこと。コーヒーを淹れてあげる,後輩の相談に乗るなど,週に1度は人に優しくすることを心がけてみてはいかがでしょうか。
6. 感謝の日記を書いて「感謝力」を高めよう
「ありがとう」と言葉にして不快に感じる人は少ないでしょう。感謝の気持ちをもつことは幸福度に寄与します。「感謝しやすい人」は,よいことをされると「自分のためにこんなにもしてくれた」とその行為を特別視しやすいのだそう。この "よい思い込み" が,楽観性を生み出し,幸福感につながるのだそうです。
※幸福感を高める習慣としては,もう一人の自分が今生きているこの社会の中での自分の存在価値を何らかの形で知覚し信じる行動があります。単純な利己的な満足ではなく,社会的な人間としての自分の公正な位置づけができているという自覚が必要になります。例えば,ごく当たり前な日常において「どうぞ」と「ありがとう」の言葉を交換し合えているという自負は,自らの行動を他者との共生を実現するものとして幸福感を支えています。
【創造力を高めよう】
《説明》7. クリエイティブ活動をして「創造力」を高めよう
クリエイティブな活動は私たちの気分によい影響を与えてくれるようです。クリエイティブな活動を行なった翌日に,幸福度が大きく高まっていることが調査研究によって示されています。楽しめるクリエイティブな活動にぜひ勤しんでみてください。創作活動を通して心が癒され、日々の幸福感を高めてくれるでしょう。
※幸福感を高める習慣としては,もう一人の自分が自分をあるべき正しい方向に導いているという未来視点を維持する心がけがあります。今日を明日につないでいく意欲は,創造という具体的な活動によってよりよく生きていくことができている実感から湧き上がってきます。自分の生き様を明日に向かう目線で見届ける覚悟を持ち続ける習慣が幸福の道を照らします。
【受容力を高めよう】
《説明》4. 自己受容の日記を書いて「受容力」を高めよう
幸福感を得るためには,周囲だけでなく,自分に対しても優しくあることが大切。ありのままの自分を受け入れる力を身につけましょう。自分を受け入れられるようになるために,「自己受容の4行日記」。その日のネガティブなことを1行書いたら,フィードバックを1行。そのあと,3行ポジティブなことを書き,一日を締めくくるフィードバックを書いて完成です。
【ネガティブ1行】上司の指示とは違うことをしてしまった。
【フィードバック1行】誰でも誤解することはある。次はよく確認すれば大丈夫!
【ポジティブ3行】同僚から差し入れをもらった。
ランチがおいしかった。
仕事がスムーズに進み、定時で帰れた。
【フィードバック1行】以前より立ち直りが早い。少しは成長しているかも!
※幸福感を高める習慣としては,もう一人の自分が自分を決して見放さない習慣を維持する必要があります。そのために守るべき手順があります。もう一人の自分がまず始めに自分の至らなさに目を向けて,ネガティブな行動結果を確認します。その行動の問題点を反省し次への対応を見届けておきます。次にはさらに別の行動に目を向けて,自分にとってポジティブで良かったことを複数見いだして確認をしておきます。この手順を踏むことによって,至らないこともあるがなんとか踏みとどまり,嬉しいことに恵まれているという自分を,もう一人の自分が認め続けることができます。日々なんとか生きている中で成長していることを感じ取れると、幸福はすぐそばにあるのです。
○以上,幸福感を高める習慣としての7項目を,「生きる羅針盤」に対応させてもらいました。これまでの対応事例と同じように,あまり違和感もなく整理をすることができていると思います。それぞれの想定している世界観における具体的な表現は違っていても,人が思い至る幸せに生きる境地は本質的に同じ構造になっているようです。それぞれを別個にしておかずに,まとめていく作業から,人の生き方について深い理解が得られるのではないかと期待しています。
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社会に真剣に向き合って生きていくことは,人として誰もが願っていることです。ただ人には本能から派生する弱さもあります。その弱さを押し込めていく意思が必要になります。そしてその意思は目標を必要とします。それが羅針盤なのです。
人としてすべきことから外れないようにすることは大事であり,それは誰にとってもできることであり,気持ちの良いものです。しあわせは誰かだけにあるのではなく,皆に同時にあるものです。権利を守る,言葉は堅く響きますが,人として生きていく自然な姿であればいいのです。
(2025年06月22日)