*****《ある町の退任人権擁護委員のメモ》*****

人権メモの目次に戻ります

【人権擁護機関の報告から(2)侵犯相談対比:その2:差別待遇】


 法務省の人権擁護局から,人権擁護機関における人権相談件数および人権侵害件数とその救済処理状況についての年次報告がされています。そのデータを使って独自の分析をすることから見えてくるものを,提示していきます。
 分析に使った報告数値を取りまとめた数表は***こちら***です。

 人権擁護局による活動では,相談を受けて,その内容に侵犯の疑いがあるものについては調査を行って救済に繋いでいます。そこで,相談のうちで侵犯事案になる割合をみておきたいと思います。ただ,留意しておくことは,侵犯事案となるものは相談の中からだけではありません。直接の相談からではなく情報提供や報道内容などをきっかけとする侵犯調査も含まれていることを断っておきます。あくまでも目安ということです。
 先ずは単純に相談件数に対する侵犯件数の比を、年毎にグラフにしてみます。

侵犯の相談対比の私人間での推移図です

 図に示すように,平成の間は侵犯/相談の割合は7%ですが,令和に入って4%にまで減少しています。この全体に現れている傾向が個別の種類毎にも当てはまるのかは,後ほど見ていくことにします。
 内容の種類が私人間と公務員に関するものに類別されているので,後者についてもグラフを見ておきます。

侵犯の相談対比の公務員職務での推移図です

 こちらは,平成25年頃をピークとして,その後減少して,令和2年から激減しています。割合は最大20%であり,令和でも10%となっており,私人間よりも侵犯の割合が倍になっています。公務の中での侵犯には厳しく対応しているということでしょう。

 次に,事案の内容別の結果を順次見ていくことにします。今号では「差別」についていくつかの種類について侵犯/相談対比の推移を以下に示します。

侵犯の相談対比の差別:女性にです

 女性に対する差別待遇の相談のうちで10%弱が侵犯性の疑いがあるものとなっています。令和に入って割合が増えているようです。
 
侵犯の相談対比の差別:高齢者にです

 高齢者に対する差別待遇の相談のうちで10%弱が侵犯性の疑いのあるものになっています。推移については一定の割合に落ち着いているように見えますが,その内容に着目することが課題です。

侵犯の相談対比の差別:障がい者にです

 障害者に対する差別待遇の相談うちで10%弱が侵犯性の疑いのあるものとされています。平成20年代では10%以上でしたが,令和になって減少をしています。障がい者差別解消法の周知が進んでいるのであれば良い傾向ですが,下げ止まりが見えているので今後の推移を見届けていくべきです。

侵犯の相談対比の差別:同和にです

 同和に関する差別待遇の相談のうちで100%以上の事案が侵犯性のあるものとして扱われています。直接に相談を受けた事案とは別に他機関からの通報や報道などに現れた案を調査救済したという結果が見えます。法務局が重点的な関心を持って対応していることが窺える結果です。

侵犯の相談対比の差別:外国人にです

 外国人に対する差別待遇の相談のうちで10%程度が侵犯性のある事案として扱われています。以前に比べると半減しているようですが,他の差別待遇と同じように今後の推移を見届けていかなければなりません。

 以上,差別待遇の相談はほぼ10%ほどが侵犯として扱われているという結果が見えてきます。相談を受けるときには,その侵犯性をしっかりと見極めることが求められています。

(2024年04月28日)