【生きる羅針盤の提案(22):自己肯定6要素】
人権宣言等から導き出した「人権羅針盤」は,人権という言葉が目指すものに言い換えると人が穏やかに生きるための羅針盤と考えなければなりません。だからこそ,先に示した子どもの育ちを考える羅針盤としても有効になることができたのです。ここでは,「生きる羅針盤」としての様子を描き出しておくことにします。ふと立ち止まって,「生きるとは?」という疑問に出会った際に,その思考のお手伝いができたら幸いです。
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「私が生きる羅針盤」を考える第22版です。今号では,自己肯定感を構成する6つの感が樹木に例えて説明されていましたので,生きる羅針盤に参照してみました。
【自己決断感】
《説明》花【自己決定感】
日常は選択と決定の連続! "自分で決める"ことで人生に彩りを。自分の意思で物事を決めていく。それが人生の幸福度を決めていく,いつも決まったことしかしない,あるいは他者から与えられた選択肢をこなすだけの人生と,物事を自分で選び決めていく人生なら,後者のほうが圧倒的に楽しいし幸せです。人生を自分でコントロールしている感覚と幸福度は比例します。
※自己肯定感を構成する六感の一つは,もう一人の自分が自分をしっかりと統括していることが基本になります。そのためには,説明にあるとおり,自らに素直に向き合い,生活の端々で向き合う選択の場面で,なんとなくではなく,確固とした意向のもとに決断をすることです。自分が何を選び何をしようとして決めることは,誰の指図もなく決めてよいのです。ただし,自分以外の人に関わることは,自らに由るとはなりません。他者は他者に由るべきだからです。自らに限るという抑制を効かせていなければ,自らを統括していることはできなくなります。
【自己安心感】
《説明》幹【自己受容感】
誰と会っても,何があっても大丈夫。折れない心と強い回復力の源。自分を含め人間は不完全なんだ。その概念を受け入れられる力が自己受容感です。これがうまく働いていると,人は自分の長所と短所の両方を認めることができる。嫉妬を感じても,"人は人,私は私"と,受け止めることができ,他者に対しても,悪い面より良い面に目が向く。ポジティブにものを捉えられます。
※自己肯定感を構成する六感の一つは,もう一人の自分が自分を一人の人間として認められるポイントを見いだしているとの感覚です。どうしても至らない部分が見えてしまいますが,一方で,人のことはよく見えてしまうこともあります。そのよい点が自分にもあると,落ち着いてみれば気が付くはずです。広く人を眺めていると,至らない点は自分にだけではなく誰にでもあり,良き点は他人だけにではなく自分にもあると思われてきます。だからこそ,皆と一緒にいることが安心で,自分を受容できるのです。
【自己表現感】
《説明》根【自尊感情】
自己肯定感を支える"根"のような存在。どっしりしっかり,深く育てたい。自分を大切にできる感情。自分に価値があると思えると,他者,環境すべてに意味を見出せる。それはすなわち,どんな場所においても,生きる意味や生きがいを見つけることができる,ということ。トラブルに遭っても,"きっとこれにも意味がある"と向き合い,乗り越えることができる。セルフイメージを高く持つことができます。
※自己肯定感を構成する六感の一つは,その場限りの直感にまかせた認識だけではなく,理性的に分析し,社会的にも望ましい価値観に基づいた表現を受容して得られる心境があります。今自分に起こっていること,自分が置かれている状況,それは何かの結果であると同時に,これからの何かにつながる端緒でもあるという自己状況の表現が可能になるはずです。自分だけに目を向けると全体が見えなくなります。関わっている他者や環境の大きな動きの中で,自分の存在を見届けると,自分の存在を前向きに肯定する表現にたどり着くことができます。
【自己参画感】
《説明》実【自己有用感】
周囲や社会との繋がりの中で,役割を果たし,感じる満足感。人からありがとうと言われると人間は誰でも嬉しいもの。自己有用感とは,自分は何かの役に立っている,と思える感覚。"頼りになるね"であったり,"一緒にいると楽しい"などと言われると,承認欲求が満たされ自己肯定感が高まります。他者の人生と繋がっていることが実感でき,他者に対しても感謝の気持ちが持てます。
※自己肯定感を構成する六感の一つは,もう一人の自分が今生きている社会の中での自分の存在価値を何らかの形で知覚することです。単純な利己的な満足ではなく,社会的な人間としての自分の公正な位置づけができているという自覚が必要になります。例えば,ごく当たり前な日常において「どうぞ」と「ありがとう」の言葉を交換し合えているという自負は,自らの行動が他者との共生に参画できているという満足感をもたらしてくれるはずです。
【自己希望感】
《説明》葉【自己信頼感】
自分の中に"未来への可能性"を見出し,それを信じて,進んでいける。自己信頼感とは自分を信頼し行動できる感覚。今と未来の可能性を信じて生きる力。自分の力を信頼すると,"あれも,これもできる"と可能性を見つけられ,自信が生まれて人生が豊かに広がります。逆にこの力が弱いと,"私にはそんな力はない…"と,自分で自分に鎖をつけ,ポテンシャルを発揮できない状況を生み出すことになります。
※自己肯定感を構成する六感の一つは,もう一人の自分が自分をあるべき未来に導いているという確信にあります。今日を明日につないでいく意欲は,創造という可能性に挑戦する希望を招き寄せ,よりよく生きていくことができている実感を生み出します。自分の生き様を明日に向かう目線で見届けるようとする意識が,自らの人生を信頼できるものであるという自覚に結びつけます。
【自己効力感】
《説明》枝【自己効力感】
問題にぶつかったときにも,思考し行動し,挑戦することができる。あらゆる局面で行動する勇気を与えてくれる。それが自己効力感の最大のメリット。自分には何かを達成する力がある,幸せになる力がある,と思え,挑戦するときに背中を押し,やり抜く勇気もくれる。たとえ失敗しても,再挑戦する気力が湧き出してきます。逆にこの力が弱っていると,踏み込めなかったり,躊躇することにもなります。
※自己肯定感を構成する六感の一つは,もう一人の自分が自分の挑戦を常に激励していく喜びにあります。人が生きていくことは,どのような局面でも,できない自分が反省し学習し挑戦して,その先にある成長という成果にたどり着いていくプロセスです。他者との達成競争は二次的であり,自分の成長を繰り返していけばいいのです。できないと諦めることがあるかもしれませんが,それは新たな可能な道筋を探す機会への誘いです。一進一退,それを繰り返していけば,成長し続けられると信じることが,自分を信じて生きていくことになります。
○以上,自己肯定感を構成する六感を,「生きる羅針盤」に対応させてもらいました。これまでの対応事例と同じように,あまり違和感もなく整理をすることができているはずです。それぞれの想定している世界観における具体的な表現は違っていても,人が思い至る幸せに生きる境地は本質的に同じ構造になっているようです。それぞれを別個にしておかずに,まとめていく作業から,人の生き方について深い理解が得られるのではないかと期待しています。
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社会に真剣に向き合って生きていくことは,人として誰もが願っていることです。ただ人には本能から派生する弱さもあります。その弱さを押し込めていく意思が必要になります。そしてその意思は目標を必要とします。それが羅針盤なのです。
人としてすべきことから外れないようにすることは大事であり,それは誰にとってもできることであり,気持ちの良いものです。しあわせは誰かだけにあるのではなく,皆に同時にあるものです。権利を守る,言葉は堅く響きますが,人として生きていく自然な姿であればいいのです。
(2025年06月29日)