《伝えたと 思っていたのに 伝わらない》

 帰宅すると,留守番電話にメッセージが入っています。子ども会関係の連絡で,明日の集合時刻が変更になったという用件です。全く心当たりがなく,連絡網が途切れてしまいますが,どうしようもありません。単純な間違いによる断絶です。
 夕食のとき,連れ合いから「料理の味は」と尋ねられることがあります。私の味感度は連れ合いの掌中に捕まれていて,いつもおいしいと思っているので,ことさら言い出すことなく頂いています。あらためて尋ねられると,つい「おいしいから食べている」と答えたくなります。
 献立を工夫する努力を分かってという連れ合いの願いを素直に受け止めてやり,「おいしいよ」とただ一言答えればいいのでしょう。照れ隠しに会話のはぐらかしをたまに楽しんでいるうちはいいのですが,それだけが常態になると,気持ちのすれ違いが生じます。これは甘えによるコミュニケーションの断絶です。
 子どもが帰ってきたとき,「どうだった」と問いかけると,「別に」という答えが返ってきます。何かあるだろうと思うから,返事になっていないと文句をつけたくなります。しかし,「どうだった」は実は何も尋ねていないので,「別に」としか返事のしようがないのです。まともな返事はまともな問いがなければ出てきません。これはあいまいさによるコミュニケーションの断絶です。
 子どもを「そんなことではダメじゃないの」としかる声があります。親はもっと頑張れという気持ちです。しった激励です。でもその親心は伝わらず,ダメとしかられたことだけが素直に伝わります。
 伝えたということと,伝わったということは違うようです。

(No.14:リビング北九州:97年4月5日:1201号掲載)