《見張るより 見守るときに 子は育つ》

 母親によるしつけのト音記号は,「ちゃんト,きちんト,さっさトしなさい」です。先を急ぐ焦りが見えています。
 福岡県教育委員会の調査によると,過去15年来の養育の特徴は,父親が「点的な養育」に撤退し,母親が「囲い込み養育」に専念する傾向が出てきたということです。つまり父親はしつけに限らず子どもとの接触が減ってきて,その分,母親があれもこれも構わずにはいられなくなってきているのです。
 母親は子どもを見守るつもりですが,いつしか見張っています。見張るからつい口出しや手出しをし,させようとして構い過ぎになります。しかし,構うわりには目立った効果がないので焦り,自信を失っていきます。
 親にいつも見張られていると思ったら,子どもは緊張に耐えられなくなります。見張るという行為は敵対行為ですから,子どもの方は自分を守るために反抗したり,逃避したり,拒否したり,いろんな風穴を探し回ります。いわゆる問題行動に逸れていく場合もあります。
 ノリの効き過ぎた着衣は着心地が悪いように,張りの効き過ぎたしつけも逆効果になります。栄養価の豊富な食事でも満腹するほど食べていたら,かえって病気になります。
 「腹八分に医者いらず,腹六分で老いを忘れる」という健康警句になぞらえれば,「しつけ八分に叱責いらず,しつけ六分で焦りを忘れる」ということになるでしょう。
 見守るとは,危ないことから守ることです。あとは思い通りにさせておくことです。子どもは育とうとする本能の塊と信じて,育ちを待つのが養育です。僕はそう思います。

(No.16:リビング北九州:97年5月10日:1205号掲載)