《苦い味 忘れたころに 効いてくる》

 連れ合いが小一時間かけて作った夕食を,10分もかからずに平らげてしまう子どもたち。そのあっけなさが「もっとゆっくり食べてよ」という連れ合いの嘆息を引き出します。「よくかんで」というしつけも,せっかく時間をかけた食事だから,ゆっくり味わってほしいという願いの一面かもしれません。
 食事の満腹感は約20分遅れて感じられます。ですから20分以内に食べてしまうと,満腹感を感じる前に詰め込み過ぎることになります。早飯は食べ過ぎへの道です。ゆっくり食べると満腹感が出て,食事量を控えられます。よくかんでゆっくり食べるしつけは,体のリズムにふさわしい食べ方の教えなのです。
 薬は苦いものです。のみやすくするために甘くしてあるものもあります。ところで,舌で苦みを感じると胃液の分泌が促されます。苦いから身体が薬を迎え入れる準備をすることができるのです。苦いものを苦いと感じることが生きることであって,苦みをごまかすのは不自然な対応です。
 桜も寒さの後にやってくる温かさだから,花を開きます。寒さで目覚めます。
 子どもに対して苦言を呈するときも,苦みを味わわせることをごまかしてはいけません。優しく甘い味付けをすると,苦言を受け入れる態勢が整わないからです。はじめは苦みに反発して聞き入れようとしないかもしれませんが,後で確実に効いてきます。反発することは必要な前準備です。
 「言っても効かない」という嘆きは無用です。劇薬は即効性ですが,良薬はしばらく経って効いてくるものです。ラーメンは3分間待ちますが,苦言は3日間ぐらい待つつもりでいれば上手に出来上がります。

(No.18:リビング北九州:97年6月7日:1209号掲載)