《ほほ笑みが 人を受け入れ 美しく》

 わが家では,女は連れ合いだけです。正真正銘の紅一点です。ところで男は何色なのでしょうか。床の間に連れ合いが花を生けています。枝と葉が広がるなかに紅色の花が手前に向けられています。万緑叢(そう)中紅一点。緑の中にある紅一点だから目立ちます。どうやら男は緑色のようです。
 花は「受粉を手伝って」というサインです。蝶や昆虫がそのサインを受け取って手伝ってあげます。人もその生き続けようとするサインを本能的に感じ取り,美しさという言葉を作り出しました。美とは生きるための他への要求であり,その要求を受け入れ満たしてあげようとする共感が美の感受性です。
 父親にうとまれた紅一点がいました。家にいるのがつらく,やがて拒食症になりました。病院に診察にいきますが,検査をしても異常はありません。念のために薬をもらって帰りますが,一向によくなりません。その娘さんは別のお医者さんのもとに行きました。「どうしたの」という問いかけに,つらい日々を話すと、「つらかったね」と言われて,娘さんは泣き出しました。今まで誰もその言葉をかけてくれなかったというのです。薬なんかほしいのではなく,自分の話を聞いてくれて,つらさを受け入れてもらえればそれだけでよかったのです。
 出稼ぎから半年ぶりに帰って来る父親を,小学2年生の紅一点が出迎えます。駅から出て来た父親にむかって,女の子はなんと言ったでしょうか。父親はお帰りなさいという言葉を期待していましたが,女の子は何も言いませんでした。それでも父親は大歓迎されていることを実感できました。満面の笑みが出迎えてくれたからです。笑顔とは人を受け入れるサインです。

(No.28:リビング北九州:97年10月18日:1227号掲載)