《正月に 自分のルーツ 解き明かす》

 暮れになると家の大掃除が待っています。子どもたちの分担は,自分の部屋の整理と掃除のほかに家中の窓ガラスの拭き掃除になっています。障子の張り替え,戸棚や本棚の整理,あちらこちらに飾られている置物類,換気扇をはじめとして台所やふろ場の壁,電気の傘や家具類,日ごろやっていない掃除が私の担当です。連れ合いはお正月を迎える準備です。すべてを終えた後のソバは格別です。
 中国から来ている留学生に「日本ではお正月に子どもに何を話し教えているのですか」と尋ねられ,返事に窮したことがあります。初もうでに出かけて願かけをする姿が正月の風物詩のようです。家族で迎える正月は寝正月と年賀状を見るだけでいいのでしょうか。
 夏のお盆は仏教の行事で,仏になった肉親を迎え食を共にするために,離れている家族が一同に集います。冬の正月は神道の行事で,仏としての年忌法要が終わって神になった先祖を迎えて食を楽しむ集いの日です。正月のはしは両方を使えるように削ってありますが,片方は先祖が使うためのものです。
 暮れの掃除は先祖を清浄な家に迎えるため,しめ飾りは神を迎える家であるという看板,門松は先祖を迎える表札兼玄関であると言えるでしょう。
 自分たちの命がどのように受け継がれてきたのか,先祖をしのぶことで思い起こす日であることが忘れられています。自分の命は自分のものというおごりをいさめ,命を受け継いだことを感謝することが,子どもに伝えるべきことです。
 何も仏教や神道といった宗教にこだわる必要はありませんが,命の連鎖という人のつながりを考える機会は残しておいた方がいいのではないでしょうか。

(No.34:リビング北九州:97年12月20日:1236号掲載)