《ちょっとだけ それならできる やってみよう》

 休みの日,子ども連れで歩いていると向こうから犬がやってきます。子どもは犬を怖がって後ろに隠れようとします。「怖がらなくていい」と声をかけますが,子どもは犬をじっと見つめるだけです。臆病な子と思ってしまいます。
 若いころ久住に登山に行ったときです。牛が放し飼いになっている草原を横切ることになりました。そばを通るとき,牛がこちらをじっと見ています。何となく怖い思いをしました。子どもにとって犬は自分と同じ背丈をしているので,大人にとっての牛と同じように見えるのです。怖くて当然だったのです。
 大人は子どもに「こんなこともできないのか」と言うことがあります。大人にとっては易しいことでも子どもには難しいことがたくさんあります。子どもの立場に立つことを意識しておかないと,子どもを追い詰めてしまいます。
 母親と幼児が歩いているとき,幼児がちょっと道草をくっているのに母親が気がつかず,さっさと歩いて行くことがあります。その距離が短いと幼児は懸命に後を追って駆け出します。ところがはるかに離れてしまうと,幼児は走るのを止めて座り込んで泣き出します。母親は愚痴りながらも戻らざるを得ません。
 子どもには「やれそう」と判断する限界があります。ちょっと頑張ってもできそうにないと思うと放り出します。そうなったら親がいくら言っても動きません。親は「本人にやる気がない」と評価を下してしまいます。親の方が無理難題を押しつけているのです。
 子どもができることを見極め,それならできそうと思えるような小さな課題を与えることが親の指導です。親は自分の目ではなく子どもの目を持ちましょう。

(No.37:リビング北九州:98年1月31日:1241号掲載)