《身づくろい 言葉のおしゃれ 忘れずに》

 連れ合いが街で出会う若い女性の発する「ムカツク」という言葉を耳にして,聞いてる方がむかつくと言いながら呆れています。体臭を気にし見ぎれいにすることに励んでいるはずの若い女性が異臭に満ちた言葉を口にして平気なのは,言葉のおしゃれに無頓着なことを示しています。
 「ムカツク」とか,「キレル」としか自分を表現できないとき,その先に続くのは破局的な行動しかあり得ません。確かに世間では自分の思い通りにならないことが多く,ストレスが溜まることがあります。おじさん族なら赤提灯でグチを聞いてもらえればガス抜きができるでしょう。ところでムカツクという表現は自分の内面に渦巻くどろどろした気持ちを言うだけで,共感を呼ぶようなものではなくむしろ自分に刃を突きつける羽目に陥ります。ムカツクとしか言えない自分にまたムカツイテいきます。
 言葉の乱れは心の乱れと言われることがあります。美しい言葉を使えば美しくなれますが,乱暴な言葉は粗野な言動を育みます。美しい言葉とは何も雅かな言葉をいうのではなく,人の共感を誘う言葉だということです。自分勝手な放言が乱暴な言葉です。さらに言葉の効用を探れば,人はものごとを言葉によって考えています。雑な言葉では雑な思考や感性しか捉えることができません。そのことがやがて対人関係などを通じて自分自身に跳ね返ってきます。
 育ち盛りの子どもは言葉を十分に操ることができないので,ごちゃごちゃした使い方をします。聞きかじった言葉を所かまわず発してみて,その反応を試しているようなところがあります。ふさわしい言葉づかいと正しい使い方をみっちりと仕込むことが大切です。

(No.43:リビング北九州:98年3月28日:1249号掲載)