《聞き慣れた 言葉の陰に 見える愛》

 連れ合いの好きなテレビ番組の一つは,ダウンタウンDXです。番組の最後に国民投票というゲームがあります。おにいさん,おねえさん,おじさん,おばさん,おとしよりの各200名に聞いたアンケート集計のトップを当てるゲームです。ある回のテーマは「本当にそうか」で,選択肢は店員が言う「お似合いですよ」,仲人の言う「優秀な成績で卒業された」,恋人から別れに言われる「友達でいましょうね」,先生が言う「やればできるのに」,上司が言う「今日は無礼講で」,引っ越し挨拶状の「お立ち寄り下さい」,出前の「今出ました」です。結果はおねえさんとおばさんでは「お似合いですよ」,おにいさんは「友達で」,おじさんは「優秀な成績で」がトップで,全体の1位は「優秀な成績で」でした。
 仲人やスピーチを依頼されたときに,よく披露する話題があります。第1次南極越冬隊のエピソードです。正月に留守家族から電報が届きます。当時電話はまだ通じていません。隊員が部屋に集まって,家族からの電報をお互いに披露しました。夫の健康を気づかうもの,留守家族の様子を伝えるもの,どれも温かい内容でした。やがてある隊員が自分のもとに届いた電文を読み上げました。たった3文字の単語でした。にぎやかだった隊員たちが,その言葉でシーンとしてしまいました。「アナタ」,それがすべてでした。たった一言で,すべての思いを伝えています。飛んで帰って思い切り抱きしめて上げたいほどです。
 親子の間にも同じような言葉があります。子どもが毎日使っている「おかあさん」という言葉です。その一言に子どもはいろんな思いをのせています。しっかりと聞き取って下さい。

(No.56:リビング北九州:98年9月26日:1273号掲載)