《あいさつは 心の窓を 開く鍵》

 連れ合いが勤めている会社はファッション関係の卸会社が集まっているビルにあります。夫婦の語らいの中で,ビルの清掃をしている中年女性のことが話題になることがあります。行き会ったときに短い立ち話などをしているようです。
 勤務先で利用しているトイレにはいつも季節の花が飾られています。ビルを清掃してくれている女性に朝の挨拶をした後きれいな花ですねと話しかけると,自分の家から摘んでくるという返事でした。たくさんの人とすれ違いながらも朝の挨拶を受けることのないひっそりとした仕事をする者の温もりを,可憐な花を見るたびに感じています。
 家庭でも朝夕の挨拶を交わす習慣があると,その雰囲気で家族の気持ちを察することができます。子どもからの元気のよい挨拶,力のない声,応答無しといったパターンに気をつけていれば,親はその日の子どもが分かります。挨拶という行為は健康状態を診察しているお医者さんの打診と同じ働きを持っています。赤ちゃんの泣き声から何を訴えているのか分かるように親育ちをしたお母さんであれば,あいさつの表情から子どもを観ることはいとも簡単なことでしょう。
 ところで挨拶は受けるものであって,こちらからはすべきではないと思っているような方がおられます。そして挨拶をしないと無礼であるとおっしゃいます。貫禄を大値引きされているのもご存じ無いようです。ビル内で掃除をしてくれている女性にすれ違っても誰も挨拶をしていないと,連れ合いが不思議そうに話します。どんな挨拶の仕方をしているかという試金石を持てば,人となりが浮き上がって見えてきて,ヒューマンウォッチングを楽しむことができます。

(No.71:リビング北九州:99年4月17日:1301号掲載)