《花の種 大地に包まれ 発芽する》

 冬の間は潜んでいた草が,家の周りでたくましく青葉を伸ばし始めています。季節ごとに訪れてくれる鳥たちの置きみやげなのか,毎年新しい植物が登場します。温かくなると連れ合いの庭いじりの虫が目を覚まし,さっそくご近所から草花の球根を頂いて来て,植え付けの時期になるまで干しています。ところでごく当たり前のことですが,種は土に植えられてはじめて芽を出します。
 子どもは家庭という豊かな土壌に植えられたときから育ちを始めます。やせた土地では種が芽を出さないことがありますが,同じ関係が子どもと家庭の間にも成り立ちます。土の性質がアジサイの花の色を変えるように,家庭のありようが子どもの色を左右します。子育ては親がするものではなく,家庭が育てていると考えた方が現実に近いでしょう。この線に沿えば各家庭は地域のありようによって育てられていることになります。植木鉢のように大地から隔離された暮らし方はやはり変則的です。頂いた鉢植えも地に植え替えたら伸び伸びと育ってくれるのを目の当たりにすると,一層大地の不思議さを実感できます。
 畑に植えられた作物を食い荒らす青虫は害虫として駆除の対象ですが,受粉の役目を担ってくれる益虫は青虫が成長した蝶たちです。その蝶を誰かが大事に育てあげているのでしょうか。あまり聞いたことがありません。自然の連鎖が一部でも断ち切られるとき,全体の崩壊が訪れるような気がします。
 種は大地という懐で目を覚まし根を張り葉を伸ばし成長します。子どもたちが大地である家庭やその先にある地域にきちんと抱かれているかどうか,じっくりと見直してみませんか。

(No.72:リビング北九州:99年5月1日:1303号掲載)