《ありがとう その一言に 情けあり》

 お世話になった方への季節のあいさつとして,お中元やお歳暮が利用されています。仲人という縁を結んだ教え子からもお届け物がやってきます。元気にしているというメッセージです。翌日には受領のお礼をハガキで投函します。
 私たちはおつきあいの一つの形として届け物を差し上げたり頂いたりしています。年輩の方は先方から受け取ったというメッセージが届かないときには不安になるようです。こちらからあいさつをしたのに無視されたときのような寂しさもあります。受け取ったという連絡の一報は基本的な答礼でしょうし,それも電話などではなくちょっとした手間をかけた一筆啓上であればベターでしょう。
 アナウンサーがテレビの中から「おはようございます」と呼びかけても,視聴者は無視しています。返礼をすればかえって奇妙だと感じるような習性が身についています。自動販売機で品物を受け取って返礼のできない買い物も同類です。その余波が名前を呼ばれても返事をしない受付,譲って先に通してやっても会釈をしない通り道,コップに水をつぎ足してくれても無言のレストランと,不愛想があちこちでまかり通る次第になっています。
 講演に招かれた後に礼状が届くのは稀で,それも定型の礼状です。感想を一筆加えていただくとうれしいのですが,特に講演で語られたどの情報を受け取ったかというメッセージがあれば感激間違いありません。講演も会話です。触れ合えたことは何かをきちっと教えて欲しいものです。
 心の時代と言われても,日常生活で「ありがとう」の一言さえ封じ込めていては何をか況やという情けなさを感じます。情報とは情に報いることです。

(No.74:リビング北九州:99年6月5日:1307号掲載)