《眠る母 そっと見守る 子の育ち》

 週日を勤めている連れ合いにとって,土曜日は休養日です。掃除の後の午後はテレビをつけっぱなしでコロコロしウトウトしています。眠りやすいようにと思ってテレビを消すと,すぐに目を覚まして「聞きながら眠るのがいい」と言います。
 母という字は添い寝をしている母親のオッパイを表しているので,中の点々をノの字のようにつなげて書いては失礼になります。
 子どもは「お母さん」という言葉が好きです。台所で炊事に忙しいとき「お母さん」と呼ばれると,つい「何か用ね,さっさと言いなさい」とせかせてしまいます。子どもは「用がなければ話しかけてはいけないの?」と満たされない感じが残ります。特に用がなくても,「お母さん」と言ってみたいときがあります。母親そのものを求めているときですから,優しい笑顔を見せてやって下さい。それだけで子どもは安心します。
 そんな子どももすぐに子離れするようになります。かつて子どもが一人前になるハードルは,母親をかばってあげたい人と気づくことでした。そこに父親への共感や,早く一人前になって母親に楽をさせてあげたいという願いが生まれました。子どもがいつまでも越えられない強くて怖い母親は,子どもから成長のきっかけを奪う結果になります。母親が意識的に子どもに頼ってみることが,子どもの可能性を引き出す手助けになるでしょう。自分のことしか考えないのが子どもで,かばってあげたい人ができると大人になります。
 子だくさんの時代には幼い弟や妹が兄や姉にとってかばってあげたい人であり,その生活経験の延長として自然に母親離れができていました。少子化の中で母親は多様な役割を背負わなければならなくなっています。眠っている母親を温かく見守る気持ちがしっかりと育ってほしいですね。

(No.79:リビング北九州:99年8月21日:1317号掲載)