《聞く言葉 そのまま返し 共感が》

 帰宅し「今日は寒かったね」と言うと,連れ合いは「アラ,そう」。マンガならダァーとのけぞる所です。なぜ「寒かったですね」の一言が言えないのかと思いますが,口に出せず平気を装う辛さがあります。あなたが大将のわが家です。
 家族が分かり合えるためには,常套手段があります。それは「言葉を重ねる」ことです。子どもが「疲れた」と言ったら「疲れたの」と同じ言葉を返してやります。試合に出かけた子どもが「負けた」と帰ってきたとき,「何をしくじったの」と畳みかけると,子どもは後が続かなくなります。子どもは分かってくれないと感じます。こんなやりとりがされていると,やがて子どもは親に何も言わなくなります。子どもが親に分かって欲しいと思っていても,親のほうが無碍に拒否しているからです。「負けたの,残念だったね」と同じ言葉を返してやれば,「でも,一所懸命がんばったからいいよ」と次の言葉が出てくるでしょう。負けた悔しさを受け止めてくれたことで,子どもは安らぎを獲得できるからです。会話における相づちも,言葉を重ねる行為の簡易形と見ることができるでしょう。
 若者の間で流行っていた「ウッソー」という言葉に違和感を感じるのは,話しかけた言葉が拒否されるようなニュアンスがあるからです。次に続ける言葉を発する気持ちがなくなります。
 子どもが元気がない様子をしていると,おでこをくっつけて熱をはかります。重ねることで通じ合うという型は,人間関係のあらゆる場面に当てはまります。優しさは重なりです。

(No.9:リビング北九州:96年12月14日:1186号掲載)