《アリガトウ 引き出すために 先ずドウゾ》

 連れ合いはVというアクセサリー関係の会社に勤めています。消費が冷えているご時世ですが,アクセサリーは好況のようです。女性は自分のものはちゃっかり買っているのか,あるいは男性に買わせているのかなと感想をもらすと,連れ合いは笑っています。
 センター試験の折り,係員が待機する廊下にストーブが置いてあります。休み時間になって係員が座を外したストーブのまわりは女子高生だけに占領されていました。
 芸能ニュースでは結婚と離婚が大きなテーマです。結婚する理由を尋ねます。好きだから,一緒に暮らしたいから結婚するのでしょうからその質問は愚問だと思いますが,相手が「優しく思いやりのある人だから」といった理由が語られます。もしその言葉に後を続けるとしたら「私にとっていい人」となります。相手への気配りのつもりであればいいのですが,本心であったら行く末が心配です。
 「優しくしてあげたい人だから,思いやってあげたい人だから」という心根が結婚の基盤です。相手にとっていい人になろうとすることがベターハーフの意味です。相手に求める言葉と思っていたら用法の間違いです。私にとってという受け身ではなくて,相手にとってという主体的な意志を持つことが自立した個の資格です。かつて三高という言葉があり自分のことを棚に上げている危うさがありましたが,表層的な流行で終わってしまったのは幸いです。成熟した大人は言葉の奥深くにつながる根っこを熟知していました。
 子どもは周りの人から世話を受けて育ちますので,親は「アリガトウ」という言葉をしっかりとしつけています。ところが,この言葉は受け取る言葉です。「ドウゾ」という与える言葉を教えておかなければ大切な人間関係を結ぶことができなくなります。

(No.90:リビング北九州:00年2月5日:1340号掲載)